【中国は石炭消費を減少させない】IEAの2023年石炭ピーク見通しが実現しない理由、日本は動じず石炭火力の低・脱炭素化を

AI要約

国際エネルギー機関(IEA)が2023年の世界の石炭消費量が史上最高値を更新する見通しを公表。

中国とインドの増加により世界全体の石炭消費量が増加し、IEAは石炭消費が2026年に減少するとの見通し。

IEAの中国の石炭ピーク論に対し、筆者は再エネの普及が進んでも火力発電が主流であり、石炭消費減少は疑問視している。

【中国は石炭消費を減少させない】IEAの2023年石炭ピーク見通しが実現しない理由、日本は動じず石炭火力の低・脱炭素化を

 昨年2023年は世界の石炭消費量が85.4億トンとなり、史上最高値を更新する見通し、と国際エネルギー機関(IEA)が国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)閉幕日の2日後である12月15日に公表した。COP26以降絶え間なく、欧州は石炭の利用撤廃を目標として押し込もうとし、COP28でも当初そうした動きが見られたが、現実には石炭の消費量はさらに拡大していたわけだ。

 英国グラスゴーで行われたCOP26でも、石炭撤廃が会議で叫ばれる中、当の欧州では風力の出力低下で石炭火力が電力需給バランスの要となっていたように、近年のCOPは現実から遊離した議論の場となり下がっている。もっとも、公正に言えば今回は、北米と欧州の23年の石炭消費量は前年比2.07億トン、17.8%もの大幅な減少で、彼らは言行一致していたと言える。中国とインドが合わせて3.18億トンの消費増となったことで世界全体の石炭消費量が増加したとしている。

 この事実をCOP28開催中に公表しなかったのは故意なのかどうかは分からない。ただ、報告書の中でIEAは、今後2026年にかけて世界の石炭消費量は減少し、23年が石炭消費のピークとなる、と展望している。

 その根拠として、特に23年に2.2億トンも石炭消費を増加させた中国が今後3年間で2.05億トンの石炭消費を減少させるとの見通しを挙げている。その見通しは中国が再エネの導入を大幅に拡大することで石炭火力発電の石炭需要が1.83億トン削減されるという想定に基づくものだ。

 しかし中国のエネルギー需給を観察している筆者にはIEAの分析が正しいとは全く思えない。COPにおける石炭撤廃を迫る政治的な策動に乗っかって、客観的な立場を放棄して煽動を行っているだけのように見える。以下、IEAによる中国の石炭ピーク論に反論していこう。

 23年の中国の発電量は8兆9091億キロワット時(kWh)、前年比5.2%の伸びとなったが、電源別に見ると火力が6兆2318億kWhで同6.1%の成長で、以下、水力1兆1409億kWhで▲5.6%、原子力4333億kWhで3.7%、そして風力は8090億kWhで12.3%、太陽光は2940億kWhで17.2%の成長であった。

 成長率で見ると確かに風力と太陽光の再エネの伸長は目覚ましい。しかし火力の発電量の伸びも全体を上回っており、構成比を見れば火力が69.9%と圧倒的なシェアを占めている。中国の電力供給の根幹はやはり火力が支えているのは明らかだ。

 風力と太陽光を合わせてもそのシェアは12.4%に過ぎない。そもそも成長率ではなく発電量の増加分で見れば、23年の火力の発電量は3583億kWhの増加であったのに対し、再エネは1317億kWhと火力の3分の1程度に止まる。こんな状況で今年から石炭火力による発電量が減少していくとは一体どのようなシナリオを想定しているのか、理解できない。

 石炭火力と再エネの電力供給システムにおける貢献という点でもう少し掘り下げてみると、23年の発電設備容量の伸びを見ると、風力は前年比20.7%、太陽光に至っては55.2%も容量を拡大した。しかし風力も太陽光も発電能力がこれほど大幅に拡大したにもかかわらず、発電量は上で述べた通り、10%台の増加に過ぎない。

 発電能力の増強に比して発電量の伸びが小さいのは言うまでもなく、再エネの出力が不安定なことに起因している。風力の年間稼働率は25.4%、太陽光は14.7%に過ぎず、稼働していない時間の方が圧倒的に多い再エネが本当に石炭火力に代わって発電量を増やしていくのであれば、火力の何倍もの設備容量を準備する必要があるということになる。