若手建築家・工藤桃子インタビュー。帝国ホテルやイッセイミヤケなど、トップブランドからのオファーが絶えない理由とは?

AI要約

工藤桃子さんは、東京で生まれスイスで育ち、幅広い分野で活躍する建築家である。

彼女は「編集力」という独自の視点を持ち、新しい素材の探求や地域への配慮に力を入れている。

彼女の作品は美しさだけでなく、ストーリー性やコンセプトにも深みがある。

若手建築家・工藤桃子インタビュー。帝国ホテルやイッセイミヤケなど、トップブランドからのオファーが絶えない理由とは?

東京に生まれ、スイスで幼少期を過ごした工藤桃子さん。

2016年に自身の設計・デザイン事務所を設立した後は、帝国ホテルの食品売り場「GARGANTUA」や、イッセイミヤケのインスタレーション、最近ではサントリー白州蒸溜所のテイスティングラウンジなど、幅広い分野のトップブランドとのプロジェクトが後を絶ちません。

商業空間、展示構成、もちろん住宅も。ジャンルを選ばない高いクリエイションで、今最も注目を集める建築家の1人です。

今回、取材でお話を伺うなか、工藤さんが他と一線を画す理由はどこにあるのか考えていると、頭に浮かんできたのは「編集力」という言葉でした。この先、「設計」の定義や求められる能力の変革すらも予見させる工藤さんの才覚を、実例を通じて紐解きます。

住宅、商業にかかわらず、工藤さんが最も大切にしているファクター、それが「素材」です。

「できるだけ1つのプロジェクトで、何か1つ新しい素材をつくることを自らに課しています。それは意匠や表現のためだけではありません。私は、つくるのにかけた時間=消費される時間だと思っています。

量産の既製品ではなくて、きちんとつくられたものは、きちんと使われていく。そういう捉え方ができれば、短命なスクラップ&ビルドではない、建物の愛され方につながるのではないかと思うのです」

帝国ホテル東京の食品売り場「GARGANTUA」の店舗デザインは、まさに新しい素材を取り入れた一例。それだけでなく、特筆すべきは、その店舗の目的やゾーニングなど概要の整理整頓から、商品の展示方法までも提案。デザインという枠を超え、コンサルティングともいえる職域にまで能力を発揮しています。

この後に紹介する、青森県の山間に佇む住宅「House facing the sea」では、地域に根付く建物の在り方を追求します。この家にオリジナルの素材はないものの、県産材にこだわることで地産地消という長い時間軸と価値を付加。さらに、現地の職人との丁寧なものづくり、寒冷地ならではの課題を魅力に昇華したプラン、周辺環境に調和する控えめなデザインなど――この地にふさわしい住宅の姿を深層から熟考し、美しくアウトプットしています。

工藤さんの手掛けた作例を見ていると、率直にデザインが美しいのはもちろんですが、さらに一歩踏み込んだ「ストーリー性」のようなものを感じさせます。それは、コンセプト、素材、人、地域性や環境など…あらゆるコンテクストを複合的に読み解きまとめ上げる「編集力」のなせる業なのかもしれません。