どこまでやれるか「決めるのは自分」ファッションデザイナー・脳外科医Drまあや 二兎を追う

AI要約

派手でカラフルなアトリエでファッションデザインをする脳外科医。姿にコンプレックスを抱く彼が生み出す作品には、内面の葛藤が表れている。

完璧さを追求し続けるデザイナーだが、いつも満足できず、さらなる高みを目指している。デザインと脳外科の仕事の対照的な部分についても言及されている。

祖母の助言で医師を目指し、脳神経外科医としても活躍。脳外科の仕事とファッションデザインを両立しており、それぞれの仕事に情熱を注いでいる。

どこまでやれるか「決めるのは自分」ファッションデザイナー・脳外科医Drまあや 二兎を追う

色彩の氾濫に目がくらんだ。その印象はカラフル、という言葉では足りない。東京・巣鴨に間借りした15坪ほどのアトリエ。充満しているのは、それよりももっと、混沌(こんとん)とした、なにかだ。

スペースの大半を占めている個性的な衣服をまとったマネキンの間で、ソファに腰掛け、タブレットにペンを走らせる。

パッションピンクに輝く大輪の花、繁華街に明滅するネオンの看板…。

液晶の上、ワンピースの型紙に装飾がほどこされていく。奇抜なデザインは自らの内面だ。

「容姿にコンプレックスがあるんですよ。地味なところ。だから、華やかさを求めちゃう」

こう話し、スイッチを入れると、洋服にちりばめられた小さな無数の電球が点滅しはじめた。

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光沢のある生地に描かれたコミカルなフォントが宝石のように乱反射する。「洋服が明るければ、暗さをかき消すことができる気がして」。1年間に13着ほどの作品を仕立てているが、「完璧なものは絶対に生まれない」と話す。

意匠とは、ゼロから完全な出来栄えの作品を創造しようとする営みだ。しかし、いつも届かない。よりよいものができる気がする、という渇きにも似た感情に襲われるのが常だという。

■脳外科は「破壊」

「命を救うために、完成された脳という臓器にメスを入れなければならない。つまり、破壊。デザインとは真逆ですね」

もう一つ、脳外科医の仕事を持つ。5月から横浜の病院長に就任した。ファッションデザイナーの仕事は、休日や当直勤務の合間にこなす。

祖母の言葉に背中を押されて医師を志した。

「あなたはかわいくないし、嫁のもらい手もいないだろう。だから、手に職をつけなさい」

辛辣(しんらつ)だ。しかし、親身の助言だった。両親とそりが合わず、岩手にいる祖父母の下で暮らした。祖父は開業医で、医師は身近な専門職だった。

大学1年で受けた医学総論。教授陣が立ち代わり、専門分野を説明していくなか、脳外科の紹介の際に目にした脊髄液に包まれた脳の映像に心を奪われた。「水面に浮かぶ白くて神々しいものが見えた」と振り返る。

大学病院の脳神経外科に入局したが、ひっきりなしに呼び出しがかかる過酷な日々を過ごすなかで行き詰まり、途方に暮れた。ある日の通勤途中、幼い日に聞き慣れた音が聞こえた気がした。規則的でリズミカル。裁縫好きだった祖母が奏でるミシンの音だった。