じつは「無謀な選択」だった…「受給額の84%増額」を狙い75歳まで年金を繰り下げた元経営者夫妻の「悲惨な末路」

AI要約

老齢年金を繰り下げ受給すると受給額が最大84%増額されるが、早く亡くなると増額分を受け取れないリスクがある。

元経営者A氏夫妻の事例を通じて、繰り下げ受給の問題点が明らかになった。

老齢年金の繰り上げ受給や受給開始の自由選択制についても解説されている。

じつは「無謀な選択」だった…「受給額の84%増額」を狙い75歳まで年金を繰り下げた元経営者夫妻の「悲惨な末路」

老齢年金の受給開始年齢は65歳ですが、「繰り下げ受給」をすると年金受給額が最大84%増額されます。しかし、想定より早く亡くなってしまうと、増額した老齢年金を受給できず、残された遺族の家計が苦しい状態になりかねません。また、本来であれば65歳から受給できた年金も支給されないことがあります。

前編記事〈「70代でも世帯年収800万円」の予定が台無し…年金の繰り下げ受給を決めた夫が急死、残された妻が「大後悔したワケ」〉では読者の理解を助けるために、元経営者A氏夫妻の事例を取り上げました。

A氏は昭和27年5月生まれ。35歳のときに起業し、従業員30人程度の会社に成長させ、65歳で会社の代表取締役社長を引退して会長に就任しました。退職金を含めて金融資産は5,000万円以上あり、老後資金は余裕であると考え、75歳まで年金(老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方)を繰り下げることにしました。

A氏の妻は昭和32年5月生まれ、A氏より5歳年下です。結婚して子供が生まれるまで8年くらい会社勤めの期間がありますが、子供が生まれてからは、ずっと専業主婦でした。

2人の受給額の詳細は前編記事をご覧いただくとして、想定外だったのは、A氏が年金受給が始まる前、72歳で急死したこと。結果的に、残されたA氏の妻が受け取れる金額は1000万近く減ってしまったのです。

本記事ではこの事例も踏まえ、繰り下げ受給の問題点について考えていきましょう。

※注:本記事では、年金受給額の計算において、わかりやすくするため、一部、厳密な計算を省略していることをご了承ください。

ここで、事例内では解説しきれなかった年金の「繰り上げ受給」「繰り下げ受給」の仕組みについて簡単に解説します。

老齢年金の受給開始は原則65歳からですが、受給開始するタイミングを60~75歳の間で1ヶ月単位で自由に選択することができます。

60歳から65歳になるまでの間に受給開始することを「繰り上げ受給」といいます。繰り上げ受給すると、1ヶ月当たり0.4%(※)減額され、最大の60歳まで繰り上げると24%減額されます。

※昭和37年4月2日以降生まれの方の減額率。それ以前に生まれた方の1ヶ月の減額率は0.5%(60歳繰り上げで最大30%)。

老齢年金には、「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の2種類がありますが、繰り上げ受給では、それぞれ別々に繰り上げることはできず、両方を繰り上げ受給する必要があります。