夏休みに拡大する体験格差、「体験ゼロ」家庭に求められる「体験と子どもをつなぐ支援」

AI要約

低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」の現実、体験格差の問題を解消するための施策について探る。

コーディネーターの役割を通じて、子どもたちと体験の場をつなぐ支援が重要である。

送迎や付き添いの支援も考慮し、地域の福祉機関やNPOと連携して生活上の課題に対処する必要がある。

夏休みに拡大する体験格差、「体験ゼロ」家庭に求められる「体験と子どもをつなぐ支援」

習い事や家族旅行は贅沢?子どもたちから何が奪われているのか?

低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」、人気の水泳と音楽で生じる格差、近所のお祭りにすら格差がある……いまの日本社会にはどのような「体験格差」の現実があり、解消するために何ができるのか。

発売即5刷が決まった話題書『体験格差』では、日本初の全国調査からこの社会で連鎖する「もうひとつの貧困」の実態に迫る。

*本記事は今井悠介『体験格差』から抜粋・再編集したものです。

「体験」の壁はお金だけではない。送迎や付き添いの問題があり、親自身の価値観なども関わる。そのため、子どもの体験格差を是正するには、経済面以外の施策も必要になる。

低所得家庭のうち、少なくとも一つの「体験」を子どもにさせている家庭が7割だった。これらの家庭には、経済的な支援が有効だろう。逆に、「体験ゼロ」になっている残り3割の家庭、特にその中でも保護者がそもそも子どもに「体験」の機会を与えたいと強くは思っていない可能性がある2割の家庭については、経済的な支援以外のアプローチとの組み合わせを検討することが極めて重要だ。

これらは総じて、体験と子どもを「つなぐ支援」と言える。

「つなぐ支援」としてまず提案したいのが、数ある「体験」の場とそれぞれの子どもとをきめ細やかにつなぐ役割を果たす「コーディネーター」を配置することだ。

コーディネーターは、子どもとの遊びや会話を通じてその子自身の興味関心や望みを捉え、親との面談を通じて家庭の抱える事情をキャッチする。そうして得られる細かな情報が、一人ひとりの子どもに合う活動や教室の提案につながる。子どもたちと利用先の講師やコーチとの相性も重要だ。いくつかの活動を実際に体験してみたうえで、実際にどの習い事やクラブに入るかを決めるといった仕組みも構築できれば、なお良いだろう。

長野市の実証事業では、子どもにクーポンを提供するだけでなく、地域に根差したNPOなどがコーディネーターとして様々な体験の場の発掘、体験の場の新規創出の支援(公共施設などの活用)、子どもに対する利用先の提案といった役割を担っている。そこまで含めて予算に組み込まれている点が画期的だ。

これまで障害者支援、経済的に困窮した若者やシングルマザーの居住支援などに携わってきた石黒繭子さんも、長野市でコーディネーターとして活動を始めた一人だ。困難を抱える家庭や子どもであるほど、コーディネーターの役割がより重要になってくると言える。

小学校の低学年などまだ幼い時期には、自分が何をしたいのかという確固たる対象が定まっていなくても不思議ではない。だからといって、「大人が代わりに決めてあげれば良い」のでもない。一人ひとりの子どもが参加する「体験」は子ども自身が選べるべきで、その子ども自身の選択に寄り添い、サポートするのがコーディネーターの仕事ということになる。コーディネーターの役割はあくまで「つなぐ」こと、そのために必要な機会と情報を子どもや保護者に対して提供することだ。

コーディネーターには、情報の壁を下げることも期待される。地域で様々な「体験」を提供する小規模な「担い手」の存在は概して見えづらい。看板も出さずに自宅の一室でピアノを教えている教室、公民館の掲示板で部員を募集しているダンスサークルなど、ネットでは見つけられない場合も多い。

親同士のコミュニティを通じて口コミで情報を得られる人はまだ良いが、そこにはつながっていない保護者も少なくない。むしろ、困難を抱える家庭ほど地域で孤立している場合が多いのではないか。だからこそ、地域にどんな「体験」の場があるかに精通したコーディネーターが必要になる。

そもそも「体験」に対する補助の制度を構築しても、必要な人に情報が届きにくいという課題もある。そこでコーディネーターは、学校などでチラシを配布するなどの一律的な形にとどまらず、個々の事情に合わせて丁寧に対応を行う。行政や地域の福祉機関、ソーシャルワーカー、NPO等と連携して、制度利用の働きかけを行うことも重要な役割だ。

さらに「つなぐ支援」の一つとして、送迎や付き添いの支援も忘れてはならない。小学生などの幼い子どもや障害のある子どもの場合、子どもだけでは移動することが難しく、大人のサポートが必要になる。それを親や祖父母といった家族が担える場合もあるが、できない場合もある。具体的にはひとり親家庭や多子世帯、未就学児や要介護者のいる家庭などだ。

こうした家庭の子どもたちを「体験」の場へとつないでいくためには、既存の制度であるファミリーサポートの更なる充実や利用促進に加えて、行政による送迎手段の提供、タクシー会社やバス会社など地域の交通機関との連携といった取り組みを検討し、それぞれの地域の実情に合わせて網の目のように構築する必要があるだろう。また、「体験」に関わるサポートをする中で「体験」にとどまらない生活上の課題が見えてきた際には、地域の社会資源につないでいくこともコーディネーターの役割の一つだ。

本書の引用元『体験格差』では、「低所得家庭の子どもの約3人に1人が体験ゼロ」「人気の水泳と音楽で生じる格差」といったデータや10人の当事者インタビューなどから、体験格差の問題の構造を明かし、解消の打ち手を探る。