認知症の「軽症リハ」では具体的にどんなことを行うのか【正解のリハビリ、最善の介護】

AI要約

認知症リハビリの一環である軽症リハについて解説。認知症の進行を遅らせ、できる能力を向上させるための取り組み。

軽症リハでは、個々の困りごとやできないことを整理し、できるだけ自分で続けられる環境を整えていく。

家族の関わり方やサポートの重要性も強調され、認知症の進行を遅らせるためのアプローチが紹介されている。

認知症の「軽症リハ」では具体的にどんなことを行うのか【正解のリハビリ、最善の介護】

【正解のリハビリ、最善の介護】#40

 当院で実施している認知症リハビリのうち、今回は「軽症リハ」についてお話しします。

 認知症発症後、進行を遅らせて“できる能力”を向上させるためのリハビリです。

 認知症には進行度が定められています。日常生活に支障を来すほどではないけれど、物忘れが増えたり、時間や場所の感覚が乱れるといった症状が増える軽度認知障害(MCI)が進み、認知症を発症すると、直前の出来事を忘れてしまったり、同じことを何度も繰り返し口にしたり、現在の日付や曜日などが分からなくなったり、できないことが増えていきます。一般的には軽症の段階です。正確な診断は、脳の画像診断に加え、「MMSE(ミニメンタルステート検査)」「長谷川式認知症スケール」といった認知機能の評価テストを行って、時間、場所、文章復唱、計算などの項目について評価したうえで行われます。

 軽症リハは、軽症の段階で介入し進行を遅らせて、できる能力を向上するために実施します。

 基本的には、これまでお話しした予防リハと同じく、筋力と体力の維持・向上のための身体トレーニング、頭を使う(学習)トレーニング、コミュニケーションを図る取り組みを行いながら、外来や通所とは別に自宅を訪問して「日常生活で困らない」ようにするためのリハビリを実施していきます。

 軽症の段階では、記憶障害に加えて、注意障害、見当識障害が現れるため、それまでできていたことが徐々にできなくなってきます。そのため、日常生活において、料理が嫌になった、掃除や洗濯をしたくない……といった意欲の低下がみられるようになります。その際、「嫌ならばやらなくてもいいですよ」などと敬遠させてしまうと、その作業のすべてができなくなっていきます。ですから、本人にその作業を継続してもらうことが重要になります。

■自分でできることはやってもらう環境を整える

 そのために必要なのが、何ができなくて困っているのかを整理し、その作業の工程をシンプルにしたうえで、繰り返し行ってもらうことです。たとえば、調理の場合、献立を決め、食材を用意し、使う道具を選択するなど工程が複雑なので、認知症の患者さんは調理すること自体がおっくうになります。そこで、患者さんは調理をする際に何ができないのか、どこに困っているのかを整理し、できないことや困っていることだけを周囲がサポートして、工程をシンプルにしたうえで、本人にはできることだけをやってもらうようにします。

 自分で献立が決められないなら、その人の得意のメニューだけを数を絞って挙げたり、周囲が決めて設置したホワイトボードに掲示したり、調理の手順を記載したり、火事の不安を軽減するためにガスコンロをIHコンロに変更したり、調理器具や調味料の数を必要最低限まで減らし、保管場所を1カ所にまとめたり……といったように環境を整え、自分でやれることを続けてもらうのです。たとえ時間がかかっても最後まで本人が行い、使った道具や調味料は自分で後片付けしてもらうことも大切です。

 これが洗濯なら、洗剤を投入して開始のボタンを押すだけの作業を継続してもらうなど、本人ができることを繰り返し反復して継続することがとても重要です。できることだけはやってもらうことを続けないと、いずれすべてができなくなってしまうのです。

 その際、家族にはどう関わって、どの部分でサポートするのかについての指導も行います。特に食事なら、「とてもおいしいよ。ありがとう」、洗濯なら、「とてもキレイでいい香りになったね。ありがとう」などと感謝の気持ちを表現して関わることが大切です。

 認知症は進行すると神経細胞が減っていくため、どうしてもできなくなる作業が徐々に増えていきます。そうなった時、「なんでできないんだ」と叱責して、無理にでも思い出させようと本人にやらせるのは不可能です。できなくなった作業はあるけれど、全体の工程をシンプルにすればこなすことができるというふうに仕組みを変更する。これが認知症の進行を遅らせて、できる能力を向上させる軽症リハのひとつの方法なのです。

(酒向正春/ねりま健育会病院院長)