「原爆投下は正当だった」アメリカ人学生の言葉に日本人精神科医が返した言葉

AI要約

原爆投下に関するアメリカと日本の意識の違いについて、ハーバード大学の准教授である内田舞氏が語る。

日本人とアメリカ人の間で原爆投下や戦争犯罪に関する意見の違いについての対話が紹介される。

内田氏がアメリカの学生との対話を通じて、日本の歴史や被害者のストーリーを尊重する必要性を訴える。

「原爆投下は正当だった」アメリカ人学生の言葉に日本人精神科医が返した言葉

1945年8月6日広島に、そして8月9日に長崎に原子爆弾が投下された。今年は、3月29日に映画『オッペンハイマー』が公開され(現在、8月2日より全国でアンコール上映中)、改めて原爆投下について考える動きがあった。しかし、アメリカと日本では原爆投下に関して温度差も大きい。

「アメリカでも第二次世界大戦について語られることはありますが、ヒットラーやユダヤ人大虐殺についてが中心です。そして、映画やドラマといったメディアで題材として多く扱われるのは、その後の冷戦に突入してからのロシアとの駆け引きばかり。原爆投下に関しては、“投下した”という事実以外はほとんど語られることがありません。実際にあのとき、広島や長崎にいた人々が体験した、人間としてのストーリーは語られることがほとんどないのです」というのは、『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』(文春新書)、新刊『うつを生きる 精神科医と患者の対話』などの著書があるハーバード大学医学部准教授で小児精神科医の内田舞さんだ。

内田さんの祖父は広島出身で、現在も多くの親戚が広島に暮らし、祖父や親戚の方達から、原爆の体験について伝え聞くことが多かったという。しかし、アメリカで暮らすと、原爆に対する意識が日本とは大きく異なると感じる場面が多々あるという。

実際、2015年の米国世論調査機関「ピュー・リサーチセンター」の調査では、広島と長崎への原爆投下について、18歳から29歳のアメリカの若者の47%が「正当だった」と解答している。

前編『原爆軽視が根付くアメリカ。『オッペンハイマー』に日本人精神科医が今思うこと』に引き続き、内田さんが同作を見て感じたことを、アメリカの学生たちと対話したエピソードと共に寄稿いただいた。

10年以上前のことですが、アメリカ人の学生とこんな会話がありました。その学生は日本語を学び、日本を訪れたときに広島の原爆記念館を訪ねたそうです。そこで日本人が「こんなことをしたアメリカ人は絶対に許せない」と言っていたのを聞き、それに反感を覚えたというのです。

「アメリカがあのタイミングで原爆投下して、どれだけ破壊力があるかを世界中に知らしめられたことで、冷戦中の核兵器使用が防がれた。世界の滅亡を避けられたじゃないか。大体、日本は被害者なのか。ユダヤ人大虐殺をしたドイツと連盟を組んで、他のアジアの国にもひどいことをしたじゃないか。それでいて第二次世界大戦といったら原爆投下の被害ばかり語るのっておかしくない? そもそも戦争中っていろんな国がめちゃくちゃひどいことをしたわけだから、日本が、日本が、って核兵器についてばかり言うのはおかしいと思う」

その場にいた日本人は私ひとりだったので、とても孤独な状況でしたが、私は勇気を出してこう発言しました。

「日本が他国にした酷いことはもっと語られなければならない。戦時中、日本国政府が日本国民に発したメッセージの問題に対しても、もっと学ばなければいけないことはたくさんある。日本国政府が当時、国際政治の中でよくない判断を下したことも間違いない」

さらに続けてこう言いました。

「でも、それでも私は、日本から『Never Again(二度と繰り返さない)』というメッセージは発し続けなければならないと思う。

誰かの責任だということは簡単だけど、それだけが注目されるべき問題ではない。日本に原爆が投下されたのは『冷戦での使用を防ぐための投下』というような、核戦争や核兵器についての議論を『理論的には』と、実体験から隔離した机上の空論のように語るのは良くないことだと思う。実際、原爆投下後のヒロシマやナガサキでどれだけの人がどのように亡くなったのか……。 熱波で瞬間的に消えてしまった命、爆風にとばされた人、ガラスのかけらが体中に刺さった人、皮膚がとけ落ちてしまった人、ひどい火傷で川に飛び込んで亡くなった人、白血病で血を吐きながら亡くなった人、親を亡くした子どもたち……。もっともっと様々な生き様がそこにあり、その人々のストーリーなしには核兵器は語られるべきではない。それがNever Againに繋がると思う」

さらに、同じ会話の中で、アメリカ人の大学生から「9.11とカミカゼ特攻隊を比べるのを嫌がる日本人がいるのもおかしい」という発言もありました。

私は「航空機で突進する、という点で、9.11のテロリストとカミカゼ特攻隊の類似点はわかる。そして戦争中ではないときに、一般市民を無差別殺人した9.11のテロリストと特攻隊の加害は違う、という人がいるのもわかる。でも、何よりも『カミカゼ』という言葉でしか特攻隊のことを知らずにイメージするものと、実際の人のストーリーを通して抱くイメージは全く違うものだと思うよ」と話しました。