女子800m日本記録保持者の久保凛、大会新でV2を達成もレース後に涙した理由…日本人で初めて1分台に突入した重圧

AI要約

久保凛率いる東大阪大敬愛チームが女子800mで圧倒的なパフォーマンスを見せてインターハイを制覇。

久保は大会新の2分00秒81を記録し、連覇を果たすも1分58秒を目指していたため悔しさもあった。

チームはトリプル入賞を達成し、全国高校駅伝の初出場へ向けて力を合わせる決意を示す。

 文=酒井政人

■ ピンクのユニフォームが女子800mをジャックした

 インターハイにおける陸上競技の個人種目は各校3名まで出場できる。そして「高校一」を争う決勝の舞台に立つには、地方大会、都道府県大会、ブロック大会を勝ち抜き、インターハイでも予選、準決勝を突破しなければいけない。

 そのなかでチームとしてひときわ目立ったのが、日本選手権女王・久保凛を擁する東大阪大敬愛だ。ピンクのユニフォームが女子800mをジャックした。

 予選は1組で久保凛(2年)が400mを62秒で入って、2分07秒73でダントツトップ。3組は朝野流南(2年)が2分11秒21、4組は北村凛(3年)が2分09秒25でそれぞれ1着通過した。

 準決勝は1組の北村が2分07秒95でトップ通過、2組の久保は400mを60秒で突っ込むと、終盤は流して2分06秒96をマークする。3組の朝野は2分08秒62の2着で通過した。

 翌日の決勝では東大阪大敬愛のピンクのユニフォームが3人並んだ。

■ 東大阪大敬愛がワン・ツーを飾る

 女子800m決勝は日本記録保持者の久保が連覇に向けて、ぶっ飛ばした。すぐに独走となり、400mを59秒で通過する。

 「脚も動いていて、『もしかしたら』という気持ちはありました。インターハイは高校生だけの大会ですが、たくさんの方々が応援してくれる。レース中も声援が聞こえてきて、背中を押していただけました」

 久保はその後もスピードを緩めることなく突き進んだ。そして2分00秒81の大会新で連覇を達成した。

 従来の大会記録は2017年に塩見綾乃(京都文教/現・岩谷産業)が川田朱夏(東大阪大敬愛/現・ニコニコのり)と競り合って樹立した2分02秒57。今年の7月15日まで高校記録だったタイムを2年生が大きく塗り替えたことになる。

 独走Vを飾った久保の背後では、北村が猛スパートをかけていた。そして2分06秒24の2位でゴールに飛び込み、東大阪大敬愛がワン・ツーを達成。朝野は2分17秒17の8位と苦しんだが、同校はトリプル入賞の快挙も成し遂げた。

 北村は、「2位を狙っていたので順位は素直にうれしいです」と笑顔を見せるも、「2分3秒というタイムと敬愛でワン・ツー・スリーを目標にしていたので悔しい気持ちが大きいです」と自分たちに厳しかった。

 それでも北村は自己ベストを昨年の2分12秒92から今季は2分05秒69まで短縮。インターハイも例年なら〝優勝〟できるだけのパフォーマンスを発揮した。

 気になるのは同じチームに〝最強ランナー〟がいることだ。先輩の目に久保はどのように映っているのだろうか。

 「久保は普段明るくて、謙虚で自分のリズムがあって、先輩や後輩への気遣いもできる。人間として良い人だなと思います」

 北村と久保は同じ「凛」という名前だけに、普段は、「久保さん」「北村先輩」と呼び合っているという。ピンクのユニフォームを着て、全国の舞台で〝直接対決〟する機会はもうないが、「次は駅伝に向けて頑張っていきたいです」と北村。インターハイの女子800mでトリプル入賞を果たした3人を軸に東大阪大敬愛は全国高校駅伝の初出場を目指していく。

■ 大会新のV2でも涙がこぼれた

 今年のインターハイで最も注目を浴びていた久保凛。女子800mで期待通りの快走を重ねて、最後は2分00秒81の大会新を叩き出した。圧巻の走りで、会場を何度も沸かせたが、本人は納得していない様子だった。

 「今回はインターハイの連覇を一番の目標にしていたので、それを達成できたのはすごくうれしいです。でも1分58秒台を狙って走っていた部分があったので、そこはとても悔しいですね。1周目の入りと600mの通過は自分の思っていた通りなんですけど、ラストで落ちてしまった部分があったので、そこは修正していきたいです」

 久保は昨季、高1歴代2位の2分06秒05をマーク。今季は4月の金栗記念で2分05秒35、5月の静岡国際で2分03秒57、6月の日本選手権で2分03秒13と自己ベストを連発した。そして7月15日の奈良県第1回長距離強化記録会を1分59秒93で走破。2005年に杉森美保が樹立した2分00秒45の日本記録を19年ぶりに塗り替えて、日本人で初めて1分台に突入した。

 しかし、久保は日本記録保持者になったことで、何か〝大きなモノ〟を背負い込んでしまったのかもしれない。

 「2分を切れて、日本記録を残せたことは自分のなかで自信になるんですけど、1回だけじゃダメなので、何度も2分を切れるような存在になっていかないといけないと思っています。みんなで支え合って練習してきて、決勝もひとりではなく、仲間と走れたのは力になりました。無事に走り切れた安心感もあるんですけど、やっぱりタイムは悔しい部分があります……」

 レース後、久保の瞳から涙があふれた。

 前回覇者として「負けられない」という重圧、日本記録保持者として「さらにタイムを短縮するんだ」という情熱、それから仲間との絆。様々な感情が渦巻いていた。

 次のターゲットは8月下旬にペルー・リマで開催されるU20世界選手権。「速い方がたくさんいるんですけど入賞を目標にしたいです」と久保は話した。さらに「今季中にもう一度日本記録を更新して、1分58秒台に入りたい。来年はインターハイで3連覇して、自分の記録を越えられるように練習に励みたいと思います。800mは世界であまり通用しない部分あるので、自分がという気持ちでいます」と世界への真っ向勝負を誓っていた。