細胞の暴走から身体を守るため何重にもはられた安全装置…その主役がじつは「強力な戦闘員」ではなくまさかの「寝かしつけの達人」という驚愕の事実

AI要約

20世紀のおわりから21世紀の今日にかけて、免疫の“常識”は大きく変わりました。自然免疫が獲得免疫を始動させることがわかり、新たな概念も加わり、制御性T細胞の存在は確かなものとなり、mRNAワクチンは現実のものとなりました。

免疫を学ぶための入門書が最新の知見をふまえて10年ぶりに改訂され、免疫の基本的なしくみについて世界屈指の研究者たちが示唆しています。

自己反応性のT細胞やB細胞の存在や免疫の活性化と制御に関する仕組み、それらがどのように協力して働くのかについて解説されています。

細胞の暴走から身体を守るため何重にもはられた安全装置…その主役がじつは「強力な戦闘員」ではなくまさかの「寝かしつけの達人」という驚愕の事実

20世紀のおわりから21世紀の今日にかけて、免疫の“常識”は大きく変わった。自然免疫が獲得免疫を始動させることがわかり、自然炎症という新たな概念も加わり、制御性T細胞の存在は確かなものとなり、mRNAワクチンは現実のものとなった。

免疫を学ぶとき最初に読むべき一冊として高く評価された入門書が最新の知見をふまえ、10年ぶりに改訂。

免疫という極めて複雑で動的なシステムの中で無数の細胞がどう協力して病原体を撃退するのか?わたしたちのからだを病原体の攻撃から守る免疫の基本的なしくみはどうなっているのか?本連載では、世界屈指の研究者達が解き明かした「免疫の最前線」を少しだけご紹介しよう。

*本記事は、自然免疫研究の世界的権威審良 静男、B細胞研究の第一人者黒崎 知博、T細胞研究・炎症学研究の第一人者村上 正晃3名の共著『新しい免疫入門 第2版 免疫の基本的なしくみ』(講談社ブルーバックス)を抜粋、編集したものです。

わたしたちのからだには、自己反応性のT細胞やB細胞ができてしまう。6章の最後でふれたように、胸腺や骨髄での選択によって完全に取りのぞくのはむずかしい。

しかし、自己反応性のT細胞やB細胞は、自己を攻撃してしまう可能性をもっているわけだから、なんとか制御しなければならない。そのための安全装置が何重にもはりめぐらされている。

また、免疫がはたらき出せば、やがて病原体は排除される。にもかかわらず免疫がはたらきつづけてしまったら大変だ。しかるべき段階で反応を終了させるしくみもそなわっている。

それらを順に紹介しよう。

そもそも免疫のシステム自体が、自己反応性の免疫細胞が誤って活性化しにくいしくみになっている。

獲得免疫が始動するポイントを思いだしてほしい。自然免疫細胞である樹状細胞は、食べた相手が細菌やウイルスであることを確認した場合に活性化し、ナイーブT細胞(ヘルパーとキラー)に抗原提示をして獲得免疫を始動させる。このようなしくみなので、たとえ自己反応性のナイーブT細胞がいたとしても、獲得免疫が始動することはないと2章でのべた。

原理的にはそのはずなのだが、少々弱点がある。

図7‐1を見てほしい。樹状細胞が活性化して抗原提示をしているところである。Cというウイルス由来の〈C(1)〉〈C(2)〉〈C(3)〉……や《C1》《C2》《C3》……にまじって、自己細胞由来の〈ア〉〈イ〉〈ウ〉……や《あ》《い》《う》……が提示されている。このとき、〈ア〉〈イ〉〈ウ〉……や《あ》《い》《う》……にくっつく自己反応性のナイーブT細胞(ヘルパーとキラー)がいたとしたらどうなるか。

活性化した樹状細胞に提示されるペプチドは病原体由来のものが多くなると考えられるが、自己細胞由来のものがないわけではない。すると、見かけ上、樹状細胞は自己抗原に対しても活性化しているので、自己反応性のナイーブT細胞が活性化してしまう危険性があるのだ。

このような事態をまねかないように、日ごろから丹念に自己反応性の免疫細胞を取りのぞくしくみがある。それを説明しよう。