156を黙って売ったら家族に泣かれた 人生初旧車のアルフェッタGTとアバルト124スパイダーに乗るオーナーがたどった愛と笑のイタリア車遍歴とは?

AI要約

金田裕さんはイタリア車オーナーで、9台のイタリア車を所有している。彼は自ら愛車の修理に挑戦し、トラブルにも耐えてきた。

彼のイタリア車遍歴はアルファ・ロメオやフィアット、ポルシェ、アバルトなど様々で、現在はアバルト124スパイダーを所有している。

金田さんの愛車の1つであるアルフェッタGTは人生初の旧車であり、彼にとって特別な存在だ。これからはアバルト124ラリーR-GTを手を加えて競技への参戦を考えている。

156を黙って売ったら家族に泣かれた 人生初旧車のアルフェッタGTとアバルト124スパイダーに乗るオーナーがたどった愛と笑のイタリア車遍歴とは?

自動車競技にも積極的に参加するオーナーがイタリア車を都合9台も乗り継いだワケとは? 自らも旧いアルファ・ロメオGT1600ジュニアに乗る高桑秀典がリポートする。

◆すっかり免疫ができている

「実はアルフェッタGTのラジエター冷却ファンが回らないんですよ。忙しくて作業する時間が取れなくて。配線をイジってみたいんですが、今やってもいいですか?」

冷却系のトラブルが解決していないことを自覚していた金田裕さん(59歳)は、事前にアルファ・ロメオ・アルフェッタGTとアバルト124スパイダーを一緒に撮影したいとお願いしていたこともあって、少し恐縮しながら我々を出迎えてくれた。

結局、手持ちの部品では対応できず、近くのホームセンターまで買い出しに行くことになったものの、パーツさえあるならば、と彼は手早く工具を出し、配線を直していく。

金田さんがちょっとやそっとの故障で動じず、愛車の修理に率先して挑戦するのは、過去に所有したイタリア車でも似たような不具合をたくさん経験してきたからだ。トラブルが続き、イタリア車のことが嫌いになってしまう人もいるが、金田さんの場合は愛が深まり、さまざまなトラブルを克服してきている。この日もそうだったが、肝心な時に壊れるという、いわばドラマチックな展開すら楽しんでいるようにも見える。すっかり免疫ができているのだ。

金田さんにとっては124スパイダーが9台目のイタリア車だ。撮影の合い間に、個性的かつ愛に溢れた彼のイタリア車遍歴を尋ねてみた。

「1998年に初めて買ったイタリア車が96年型のアルファ・ロメオ155V6で、2年半所有しました。この155は大丈夫でしたが、次に買った92年型のアメリカ仕様の164Lでトラブルの洗礼を受けました。ATだったこともあり、この164Lは1年ほど乗って手放し、2001年にMTの164QVにチェンジ。これは91年型で、155と同じようにV6エンジンのサウンドが最高でした。家族にも大人気で、4年半ほど所有しましたね。この164QVを愛用したことで、その後20年以上の付き合いとなる仲間と巡り会うことができました」

164QVですべてを賄うことに限界を感じ、91年型のフィアット・パンダ1000ieを03年に増車し、4年ほど所有。06年に164QVから98年型のアルファ・ロメオGTV3.0 V6 24Vに乗り換え、その後、ファミリーカーとして05年型の156Ti JTSを導入。子どもの習い事の水泳やバレーボールの送迎に大活躍してくれた156は、購入から5年後に黙って売ったら家族に泣かれたそうだ。

GTVを手放した金田さんは、次の愛車として5段MTの964型ポルシェ911カブリオレを購入。筆者が金田さんと出会ったのがちょうどこの頃だったので、てっきりそちら方面の人なのかと思っていたのだけれど、12年に今なお所有する75年型のアルフェッタGTを、さらに16年にはフィアット・グランデプント1.4 16Vスポーツを購入したので、なんだ自分と同じイタリア車好きじゃないか、と思ったことをいまでも憶えている。

GTVを所有していた頃に仲間たちが同じ916型のスパイダーに乗っていて、オープン・モデルに憧れて911カブリオレを買ったらしい。しかしポルシェはあまりにも完成度が高く、飽きてしまったので13年に売却。ただし売った直後から価格が高騰していったことによるショックで体重は10kg減り、勤め先に1週間ほど行けなかったそうだ。

◆人生初の旧車はアルフェッタ

「友人のアルファ・ロメオ75を運転する機会があって、トランスアクスルもいいな、と思いました。それと同じタイミングでトヨタ博物館でカフェレーサー風にモディファイされたアルフェッタを見る機会があって、これにどハマり。ネット検索したら沖縄に1台だけ売り物があって、翌日に電話しました。結局一度も実車を見ることなくアルフェッタGTを買い、現在に至っています」

それまでに購入したイタリア車はせいぜい10年落ちぐらいだったので、アルフェッタGTが金田さんにとって人生初の旧車となった。以来12年の付き合いになる愛車を前に、想いを語ってもらった。

「購入してから3年ほどは整備工場に入っている時間のほうが長かったのですが、良い主治医、良い仲間たちに巡り会えたことで現在も所有できています。旧車のレースに出ることができたのも、このクルマのおかげですね。正直、初めの頃はアルフェッタの良さをいまひとつ理解できず、意地で乗っていた時期もありましたが、このクルマならではの楽しさに気づくことができて本当に良かったです」

アルフェッタGTを入手後は1.3リッターのプジョー106ラリーや508といったフランス車も買い足し、それらは3年半ほど前にマツダ・ロードスター(NB型)と入れ替わったが、今年の3月に17年型のアバルト124スパイダーをさらに増車する。こうして金田さんは2台の2座オープンカーと旧いアルファ・ロメオという、恐ろしく趣味性が強い3台持ちとなった。

「サラリーマンの稼ぎでは旧車でのレース活動は無理だと分かったので、アルフェッタGTではサーキットを走らなくなりました。代わりにロードスターでモータースポーツを楽しんでいたんですが、いつも参戦している耐久レースやジムカーナ、ヒルクライムで表彰台を狙うとなるとパワーが足りなかったりするわけです。それにイタリア車が主役になることが多いイベントではロードスターがなんでもありの外車枠に入れられ不利なんですよ。そこでアバルトのことも昔から好きだったので、フロント・エンジンで後輪駆動の124スパイダーを選びました。こんなクルマ、きっともう2度と造らないでしょうからね」

確かに日伊合作となった124スパイダーのようなクルマが再び産まれる可能性はそうそうないだろう。金田さんは1年半ほどずっと探していたそうだが、購入を決意する度に「いまさっき売れてしまった」という漫画のような出来事が2度続いた。結局3度目の正直で、知り合いのショップで購入できたと笑う。

これからはアバルト124ラリーR-GTをモチーフとして手を入れ、競技への参戦を考えているという。表彰台の真ん中に立つ金田さんの姿を見る日が来るのは、そう遠いことではないだろう。

文=高桑秀典 写真=阿部昌也

(ENGINE2024年8月号)