熱中症対策の氷飲料「アイススラリー」 運動前に体を冷却、認知機能も維持 近ごろ都に流行るもの

AI要約

夏場の運動前の準備が、体を温めるウオーミングアップから、冷やすプレクーリングへと転換中だ。象徴的な手段が「アイススラリー」。微細な氷の粒子が液体中に分散したシャーベット状の飲料で、体を冷やしながら水分と電解質を補給して深部体温の上昇を抑える効果がある。

これを利用する日本代表選手や甲子園でも導入される予定だ。アイススラリーは、運動前の体温上昇抑制や認知機能の維持に活用されることが期待されている。

運動前に体を冷やすメリットを科学的データで裏付け、冷却が有効であることを示す実験結果が示された。ウオーミングアップと冷やす準備の両方が重要とされている。

熱中症対策の氷飲料「アイススラリー」 運動前に体を冷却、認知機能も維持 近ごろ都に流行るもの

夏場の運動前の準備が、体を温めるウオーミングアップから、冷やすプレクーリングへと転換中だ。象徴的な手段が「アイススラリー」。微細な氷の粒子が液体中に分散したシャーベット状の飲料で、体を冷やしながら水分と電解質(塩分などのミネラル)を補給して深部体温の上昇を抑え、集中力や判断力といった認知機能の低下を防ぐ効果があるという。この夏、パリ五輪に出場する日本代表選手や甲子園(全国高校野球選手権大会)でも活用されるという。

■五輪や夏の甲子園に採用 工事現場にも

カチカチに凍ったパウチを手でもみ続けると、熱がスーッと引いてゆく。氷が柔らかくなったところで飲み口をくわえ、手のひらで圧を加えると冷感が喉から胃へと落ちてゆく。暑さでぼーっとしていた頭も、さえてきたようだ。

「微細な氷が混ざった液体が、効率的に身体の熱を奪います。胃は心臓から全身に流れる血液にも接しているため、脳内の温度も下げて認知機能の活性化や運動継続のモチベーションを改善する作用もある」と、広島大大学院の長谷川博教授(53)が説明した。

運動生理学が専門。昨年仏で開催された欧州スポーツ科学学会で、アイススラリーによる深部体温上昇抑制と認知機能の維持についての実験結果を発表した。大正製薬との共同研究だ。

男性アスリート10人に、アイススラリーが溶けた室温(32度)の状態と、冷凍のマイナス4度の2種類を1時間の運動の間に摂取してもらった実験の結果、〝常温群〟は深部体温が39度を超えて認知機能が低下したのに対し、〝冷凍群〟は深部体温の上昇が1度近く抑えられ認知機能が維持されていた。「摂取した成分も人も全く同じ。深部体温38・5度で認知機能の低下が始まるといわれており、冷却が有効であると実証できた」と長谷川教授。

「ウオーミングアップというぐらいなので、運動前には体を温め、冷やすのは良くないとの常識が僕らにはあったが、科学的データをもとに、体を冷やすメリットが実感としても理解されてきている」と、ロンドン五輪陸上800メートルの日本代表、横田真人さん(36)が語る。認識の転機になったのが、5年前に中東・カタールのドーハで開かれた世界陸上だと指摘する。競歩で熱中症による棄権者が続出した。

現在指導者の横田さんは、アイススラリーを熱中症回避とパフォーマンス維持の2点から活用している。「体温上昇による発汗で電解質が排出され、熱中症で脚がつるなどの障害が起きる。飲む際に両手でもんでください。氷水に手を突っ込んで末端を冷やすことと同じ効果があります」