「インスリンボール」ができたときの注意点…重度の糖尿病患者が知っておくべきこと

AI要約

糖尿病患者の治療環境の進化とインスリンボールの問題について

インスリンボールの対処法とCGMの活用

公的保険での利用可能性と今後の展望

「インスリンボール」ができたときの注意点…重度の糖尿病患者が知っておくべきこと

 いまや糖尿病の薬は劇的に進化し、血糖値が下がるだけでなく、心血管イベントや腎機能低下予防などの効果が実証されている新薬が続々登場、糖尿病患者の環境は良くなっている。ならば、インスリン注射の利用者は少なくなったか、といえばさにあらず。いまも、インスリン治療を必要とする糖尿病患者数は多い。そんな糖尿病患者とその家族らに知っていてもらいたいのが「インスリンボール」ができた場合の対処法だ。糖尿病治療専門医で「しんクリニック」(東京・蒲田)の辛浩基院長に聞いた。

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「糖尿病(ヘモグロビンA1c6.5%以上)とその予備群(同6.0以上、6.5%未満)の患者数は2007年の2210万人から2016年には2000万人と減少しているとみられますが、それは予備群が減少したからで、糖尿病の患者数は890万人から1000万人と逆に増えたとされています。中程度以下の糖尿病患者の血糖コントロールは現在、さまざまな種類の糖尿病薬の登場とその適切な組み合わせの研究により大きな成果を上げています。しかし、膵臓の機能が低下してインスリンの分泌量が減少した重度の糖尿病患者さんは減っておらず、インスリン注射を使った治療は依然としてニーズの高い治療法です」

 問題は、長期間インスリン治療を継続している糖尿病患者はインスリンボールができることが多く、それによって血糖コントロールが乱れがちなことだ。

「インスリンボールとは、同じ場所にインスリン注射を打ち続けることでできる皮下に生じる脂肪の塊を言います。大きさはおよそ2~5センチ程度になります。それができた人は同じ場所に注射してもインスリンを体内にうまく吸収できなくなり、血糖コントロールが乱れてしまうのです。また、インスリンボールにインスリンを打つことによって、高血糖が改善されず、医師がインスリン量を増やす指示をして、その結果、思わぬ低血糖を来すことがあります。医師も、診察時にインスリンボールの有無を確認することが重要です」

 ならば「別の場所」に注射すればよさそうなものだが、長期間インスリン注射を続けている糖尿病患者の中には、いつもの注射をいつものやり方で行っているのにいつもの結果が表れないことにいらだち、感情的になることも少なくない。「別の場所への注射」をお願いしても「私は悪くない」と言い張り、拒否するケースもあるという。

 そもそも糖尿病になるのは年配者が多い。実際、令和元年の「国民健康・栄養調査結果の概要」で年齢別で見た「糖尿病が強く疑われる人」の割合は男女とも70歳以上が最も多く、男性で26.4%、女性では19.6%だった。

「高齢者の中には普段から周囲の意見に耳を傾けない人も少なくありません。インスリンボールの説明をして別の場所に注射するようお願いしても納得していただくのが難しいケースもあります」

 インスリンボールはインスリン治療歴10年以上の人にできやすい。インスリンボールから正常皮膚にインスリン注射を打つ場所を変更した場合、34%程度インスリン量が減ったとの報告もある。この場合、インスリンボールは退縮するが、完全に消失することは難しいという。

■GCMとの併用が必要

 むろん、インスリンボールができないよう、普段から注意して注射する場所を変えることが必要だが、できてしまったうえ、患者がなかなか打つ場所を変更しないケースはどうすればいいのか? ひとつの解決策がCGMの装着だという。

「CGMとは、持続グルコース測定器の略で、血糖値のトレンドを可視化するのに役立ちます。以前は患者が指先などに針を刺して血液をセンサーに吸い取らせて血糖値を測る自己血糖測定を行うことで血糖値のトレンドを知っていましたが、最近は二の腕などに専用のセンサーを装着して血糖値に近い動きをする間質液中のグルコース濃度を24時間測定できるCGMの登場により、簡単に血糖値トレンドを知ることができます。これを使えば、インスリンボールができた場所に打った場合と、そうでないところに打った場合とで、どれほど血糖コントロールが異なるかを目で確認することができます。そうなれば、自分自身でインスリンボールを避けるようになりますし、より良い血糖コントロールができるようになります」

 最近のCGMは5分ごとに自動的にモニタリングして専用アプリをインストールした先に送信されるため、本人だけでなく家族が確認することもできる。また設定したグルコース濃度の範囲外になったときには通知したり、低血糖になる可能性を予測してアラームが鳴る機能を持つものもある。

 一定の基準をクリアした糖尿病患者は、公的保険での利用も可能。興味がある人はかかりつけ医に相談してはどうだろう。