【竹田ダニエル×大田ステファニー歓人】「ネガティブな感情の動きがあるほど、人生は豊かになる」

AI要約

Z世代の価値観でアメリカの現状を考察する竹田ダニエルさんと大田ステファニー歓人さんのスペシャル対談。2人が作家として、発信者としての立場で言葉を使い世界の事象に向き合う姿を探る。

記事では、SNSでの発信プレッシャーや言葉の受け取り方について議論。2人の異なるアプローチや感じ方が明らかになる。

さらに、建設的な議論の難しさや、怒りを原動力としての発信方法、自由と孤独の関連性など、深いテーマにも触れられている。

【竹田ダニエル×大田ステファニー歓人】「ネガティブな感情の動きがあるほど、人生は豊かになる」

Z世代的価値観でアメリカの「今」について語るライターの竹田ダニエルさん。ずっと会ってみたかったという、同世代の作家、大田ステファニー歓人さんを迎えてスペシャル対談が実現しました。作家として、発信する立場として、どのように言葉を使い世界の事象と向き合っているのか、一緒に考えていきます。

■発信することのプレッシャー、SNSでの言葉の受け取られ方について

ステファニーさん: ダニエルさんのことはXの投稿で知りました。こんなにいろんな事象を解像度高く解説してる人がいるんだって。自分がすばる文学賞贈賞式でスピーチをしている様子をXでポストしてくれた時は「わ! あの竹田ダニエルだ!」ってテンション上がりました。

ダニエルさん: 私、ステファニーさんがどういう人なのかまだわからないときにXでお名前を知ったんですが、最初はパロディーアカウントかな?と思っていました(笑)。宇宙語みたいな投稿をしていたり、バイブスもギャルっぽくて、面白いし興味深いなと思って仲間の間でも話題になっていました。

ステファニーさん: やば(笑)。

ダニエルさん: でも、ステファニーさんのポストを見ていたら、ガザのことを熱心に発信していたり、小説を書いてる人だと知って興味が湧いたんですよね。

ステファニーさん: 自分は勝手に竹田ダニエルさんはマ・ドンソクみたいにタフな人って決めつけてたんすよ。だってネットで発信を続けるってすごいエネルギーがいるじゃないですか。自分は小説を出してすぐにSNSのアカウントを開設したんですけど、今は息切れしてあんま投稿できてないんすよね。

昨年10月からガザ侵攻が深刻になって黙っていられずSNSで発信してたけど、赤(子ども)産まれてからはその命守んのでへとへと。スマホ触ると苛立つのでネットから離れてます。仕事の告知やガザの状況を発信したいのに、体力を赤で使い果たしちゃってて。ダニエルさんはSNSの発信はどうやって折り合いをつけてるんすか?

ダニエルさん: 正直に言うとXはメモ代わりにしているところがあるんです。後からじっくり読み返したい記事とかその時々で知った情報を忘れないために投稿したり。あとは「文章を書く」という練習にもなります。「私はこういう人です」という自己開示ではなくて、自分が興味のあることをポストしてそこから新たな仕事につながることもあるから、次のステップへのツールという感じ。

ただ、代弁者のように発信することを期待されることは正直ダルいと感じるかな。何かしらの炎上がネット上で発生するとき、「竹田ダニエルさんが声を上げてくれるはず」「言及しないなんてがっかりです」みたいな期待の声もよくあって、そういうのも度が過ぎると期待よりも勝手に押し付けられた使命みたいになることもある。社会問題全部について言及することは不可能だよ、とは思いますね。

■「ネットで建設的な議論ができる」という幻想は忘れた方がいい

ステファニーさん: 本来はSNS楽しめるタイプというか、感情とか思いを言葉にすることで自分の状況が整理されて救いになることもあったんです。けどフォロワーが2万人を超え、だんだん自分のためでしかなかった発信を受け取られることに責任を感じるようになったんですよね。

「勇気もらいました」ってリプ頂いても、なんか申し訳ない。

ダニエルさん: 期待を裏切るかもしれない、みたいな気持ち? 

ステファニーさん: うーん、そうなのかも。

ダニエルさん: 私の場合、「学びになりました」とコメントをくれる人もいるのですが、そういう人は遅かれ早かれ私の発信以外で学びの機会を得るはずだと思ってるんですよね。だから、発信することのプレッシャーはあまり感じない。それは私がこれまで教員やチューター、メンターような形で人に接してきて、「ここから先はあなた自身が考えてね」と切り離すことに慣れているからかも。ステファニーさんは、ポジティブな反応よりも自分への攻撃には傷つかないですか?私はそちらの方にすごく心が揺らいでしまう。

ステファニーさん: 攻撃する人って見てる世界が違いすぎるから相手したくても出来ないっす。X始めた頃、「ステファニーきも」とか言われたらイラついてたけど(笑)、そういう人のタイムラインって覗きにいくと1日に100回とか呟いてて逆に大丈夫かよ、って冷める。攻撃的な方には関わらないように努力してます。間違いとか至らない表現への指摘とかめっちゃは救われてます。

ダニエルさん: ステファニーさんは独特でパワフルな文体の作品を発表されていますが、読者にきちんと伝わるだろうかという不安は感じないですか?

ステファニーさん: 小説なら伝わらなくてもいいんですよ、好きに書いたから好きに読んでもらって。意地悪な感想届いてもまずは「全部読んでくれたの!?マジありがと!」って。

ダニエルさん: 「面白くない」と言われたら?

ステファニーさん: 合わなかったんだなって思おうと頑張るっす。全員に受け入れられたくて作品を作っているわけじゃないから、建設的じゃないネガティブな声は気にしないようにしますね。でもそもそも自分には自己防衛フィルターみたいのがあって、褒めのレビューしか目に入らないんすよ。

ダニエルさん: その才能欲しい(笑)。私は悪いコメントばっかり目に入っちゃうから。

ステファニーさん: ダニエルさんはエッセイを書く時に意識していることありますか?

ダニエルさん: 伝えることに対してはもちろんベストを尽くすんですが、一つのテーマを語る上で、当然のことながらすべての事象をカバーするなんてできないから、締め切りギリギリで力尽きることが多いんです。ただ、私の場合は自分の気持ちを伝えたいというよりも、怒りが原動力になってるのかも。

「今のアメリカではこれが流行ってる」「こんなふうに支持されてる」といった表面的な、もしくは偏向的な情報が日本で拡散されていると、「いやいや」と訂正したくなる。「こういう見方もあって、こういう意見もあるよ」と発信すると、「アメリカに住んでる特権階級のやつが、上から目線で意見を言っている」と言われたり、私のコメントが雑に切り取られてて間違った形で広がっていって驚くんです。こちらがどれだけ気をつけても、人は自分の都合のいいようにしか情報を受け取らないんだなと思う。

ステファニーさん: 向きは違うけど、自分も怒りが原動力になってるかもしれない。でも自分の場合、原稿ならまだしもSNSで怒りにまかせると暴言吐きまくっちゃうから、最近はネットとかニュース見て怒りしか湧いてこないし距離取ってます。疲れてたりで怒りをうまくコントロールできなそうな時は気軽に発信しないように。

ダニエルさん: 攻撃してしまいそうだからと自覚して離れられる人は少数派ですよね。日本のインターネット空間ではオープンマインドに議論を受け入れられる土壌があまりないと思う。感情論やパーソナルな攻撃ではない、建設的な議論はなかなか生まれませんよね。

ステファニーさん: 敬意を払い合った会話や議論ってSNSの空間においては幻と思ってます。SNS見てるとイラついたり暗くなったりイラついたりでダルいっす。

■ネガティブな感情の動きがあるほど、人生は豊かになる

ダニエルさん: ステファニーさんは、SNSでガザ侵攻について発言したり、文学賞の授賞式にケフィエ(パレスチナ伝統のスカーフ)を巻いて登場されるなど、積極的に政治的な意見表明している印象があります。

ステファニーさん: 会見は注目を浴びるから、パレスチナのこと知ってもらいたかった。去年、ガザの状況や歴史を知って罪悪感で心凍ったっす。でもまだまだ知らない人もいる。

共感って人の痛みを受け入れて自分のものにすることでもあるから簡単じゃない。日本人同士ですら共感し合えてないし、そもそも共感以前に社会や世界へ関心がない。せっかく大勢の目に触れる機会が回ってきたし、パレスチナのこと知ってもらうためにフックにならなきゃって。

ダニエルさん: アメリカでは文学界のようなアカデミックな世界にいる人こそ声を上げない人が多いんです。パレスチナ擁護の声を上げると職を追われる可能性が、利権的な問題であるから。

ステファニーさん: そうか。アメリカの関わり方含め、パレスチナには世界中で紛争や弾圧が起きる理由というか、人類全体が乗り越えるべき問題の本質がどれも現れている気がして。植民地主義、差別や弾圧。この歪みを修正しない限り人類には未来がないと思う。

だからガザの人もイスラエルの人も自分と無関係とは思えない。おむつ替えてても頭の吹き飛んだガザの赤ちゃんの姿が脳裏に浮ぶ。5月に三島賞を獲ったのに、あんま素直に喜びきれてなくて、授賞会見ではせめて苦しんでいる人がいる現実を知ってもらいたかった。

一方で、何をやっても無駄なんじゃないかって絶望感に襲われそうになるのもよくわかる。ダニエルさんが連載で書いてた「Doomer」の話を読んだら、まさに学生時代の俺だと思いました。当時の自分は冷笑的で、自分の人生に責任を持てないし、世界がとかどうなってもよかった。でも妻が妊娠したらSNSでタイムリーに流れてくるガザの状況をスルーできなくなって、だからパレスチナ問題を勉強するようになったんです。

ダニエルさん: ステファニーさんは過去のインタビューで「日本は悩まないで生きようと思えばいくらでも悩まずに生きられる世界じゃないですか。そういうノーテンキな暮らしは他のやつに任したって感じで自分が苦しんでもいいから本当の自由が欲しいと思った」と書かれてましたよね。すごく共感するものの、そこには強烈な辛さや痛みも伴うだろうと思ってて。

というのも、この連載がテーマにしている“新しい言葉を知って新しい世界を知る”ということと似ているんだけど、本当の自由を得るためには、今何が自由を妨げているのか知らなきゃいけない。それを知ることで、絶望を感じてしまうかもしれないけど。

ステファニーさん: そうっすね。けど絶望して、落ち込んだり、鬱っぽいのとか日常だし、しんどいのだるいけどいつも通りです。自由って、宇宙の中を一人ぼっちでふわふわ浮いてるイメージで、自由だけど同時にポツンって孤独でこわい。

自由と孤独は光と影で表と裏というか、孤独は絶望とか恐怖を連れてくるけど、暗くて深淵の底が見えないのは宇宙が無限に広がってるからで、さみしいの我慢すればどこまでも行けるし、逆に元気ないと自分の座標を見失う。けど、そういうネガティブな感情の動きがあればあるほど、人生は豊かになる。で遠くへ行ける。

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作家 大田ステファニー歓人

1995年東京都生まれ、東京都在住の作家。『みどりいせき』で2023年第47回すばる文学賞、2024年5月には第37回三島由紀夫賞を受賞。2024年5月に第一子が誕生したばかり。最近では、SNSなどでパレスチナ問題についても積極的に発信している。

ライター 竹田ダニエル

1997年生まれ、カリフォルニア出身、在住。「音楽と社会」を結びつける活動を行い、日本と海外のアーティストをつなげるエージェントとしても活躍する。2022年11月には、文芸誌「群像」での連載をまとめた初の著書『世界と私のA to Z』を刊行。そのほか、現在も多くのメディアで執筆中。

構成・取材・文/浦本真梨子 企画/種谷美波・木村美紀(yoi)