チリワインを世界の表舞台に。エデュアルド・チャドウィックの挑戦「セーニャ 2021」

AI要約

チリワインの最高峰「セーニャ」の成功の裏には、生産者の深い愛情と誇りがあった。オーナーのエデュアルド・チャドウィック氏が挑戦を続ける背景を紹介。

「セーニャ」はチリの主要品種であるカルメネールをブレンドし、独自のエレガントで芳醇なスタイルを築いた。チャドウィック氏は世界的な評価を目指し、活動を広げる。

最新の「セーニャ 2021」は、イチゴやカシスのフルーティーな香りとスパイスのニュアンスが特徴。ジェームズ・サックリング氏から高い評価を受けている。

チリワインを世界の表舞台に。エデュアルド・チャドウィックの挑戦「セーニャ 2021」

最高峰チリワインとして世界的評価が高いのが「セーニャ」だ。このワインが世界に躍り出た最大の理由は、生産者のチリワインへの深い愛情と誇りだった。オーナーで醸造責任者のエデュアルド・チャドウィック氏が現在の成功に至るまでの舞台裏を語ってくれた

エデュアルド・チャドウィック氏。「ヴィニェドス・ファミリア・チャドウィック」オーナー。チリの生産者の中で、どこよりも早く”最高品質のチリワイン”を手がけ、「ドン・マキシミアーノ」や「ヴィニエド・チャドウィック」、「セーニャ」を生み出す。親日家で、大の日本料理好き。「セーニャは和牛の鉄板焼きとの相性は最高!」と微笑む

 チリが誇る世界的トップワインのひとつが「セーニャ」だ。造り手は老舗ワイナリー「ヴィーニャ・エラスリス」などを擁する「ヴィニェドス・ファミリア・チャドウィック」のオーナー、エデュアルド・チャドウィック氏。自身は権威あるワイン誌『デキャンタ―』において「デキャンタ―・マン・オブ・ザ・イヤー 2018」にも選出されている。

 チャドウィック氏のワインが世界舞台に躍り出たのは2004年のことだった。それまでのチリワインといえば、「安価でおいしい」というイメージ。一般消費者だけでなく、ワインのプロフェッショナルたちまでもがそんな認識を抱いていた。だが、チャドウィック氏はこのことに忸怩たる思いを持っていた。チリのワインがおいしいのは、何と言っても素晴らしい土壌と気候に恵まれているから。彼はそう確信していた。

 転機が訪れたのは1992年のこと。カリフォルニアのロバート・モンダヴィ氏が急速に発展するチリの生産地を自身の目で確かめるため、チリを訪れたのだ。当時20代だったチャドウィック氏は彼の運転手役を買って出て、各地を案内した。そして、太平洋から40kmほど内陸部に入った山岳丘陵地のアコンカグァ・ヴァレーを訪れた時、モンダヴィ氏はこう言ったのだ。「ここでなら、素晴らしいワインが造れるよ!」。そして、1995年、ふたりはチリで初めての国際ジョイント・ベンチャーの契約を結び、「セーニャ」が誕生したのだ。

 彼らが目指したのはカベルネ・ソ―ヴィニヨンを主体としたボルドー・スタイルだったが、「セーニャ」の特徴は、そこにチリの主要品種であるカルメネールをブレンドしたことだろう。果実味豊かでエレガント、芳醇なスタイルだが、どこかノスタルジックな優しさを感じさせる。素晴らしいワインが誕生したことにチャドウィック氏は満足したが、「セーニャ」はワイン専門家たちに、まだその本当の実力を知られてはいなかった(「セーニャ」は、現在「ロバート・モンダヴィ・ワイナリー」との契約を終了、「ヴィニェドス・ファミリア・チャドウィック」の所有となっている)。

 ワインの世界では、どこかに素晴らしいワインがあると聞けば、評論家たちはワイナリーに赴いてテイスティングをすることが多い。だが、「セーニャ」の元に評論家たちが来ることはなかった。

 そこでチャドウィック氏が思い出したのが、1976年の「パリ・テイスティング」だった。フランスの銘醸ワインとカリフォルニアワインを著名な評論家たちがブラインドで試飲した結果、カリフォルニアワインが勝利したという伝説の試飲会。「これだ!」と彼は直感、「誰もチリに来ないなら、こちらから出向こう」と、2004年にベルリンにおいて「ベルリン テイスティング」を開催したのだった。そこには「シャトー・マルゴー 2000」や「シャトー・ラフィット 2000」、「ソライア 2000」などの銘醸ワインが16種並んでいた。36名の審査員による厳正な審査がなされ、「セーニャ 2001」は3位の「シャトー・ラフィット・ロートシルト 2000」を押えて2位を獲得した。ちなみに1位は「ヴィーニャ・エラスリス」の最高峰「ヴィニエド・チャドウィック 2000」だった。

 チャドウィック氏は述懐する。

「チリのワインが認められたと、とてもうれしく、誇らしかった。この国で高品質なワインが造れると証明できたのですから」。

 だが、彼の挑戦はこれで終わりではない。「セーニャ」の人気が高まったことで、新たにセカンドラベル「ロカス・デ・セーニャ 2020」を2022年にリリースした。これは、より多くの人々に「セーニャ」のスタイルを知って欲しいという思いから誕生したもの。長い熟成を経ずとも楽しめる”セーニャの妹”という位置づけだ。こちらは、ムールヴェドルやグルナッシュなど、地中海で栽培されている品種も使用しているのが特徴。また、今年は、「ベルリン・テイスティング」20周年を記念し、日本、香港、韓国などのアジアツアーを敢行した。チャドウィック氏は言う。

「日本は洗練されたマーケットで、日本人の味覚はとても繊細。こうして日本で認められたことは、私たちにとって大きな励みとなります。チリからは、これから素晴らしいワインが多数登場するでしょう。『セーニャ』はその先陣としての役割を果たしました。私は、チリワインの素晴らしさ、そしてチリという国を多くの方々に知って欲しい。私の願いはそれだけなのです」。

「セーニャ 2021」750ml ¥36,410

チリ、アコンカグァ・ヴァレー。カベルネ・ソ―ヴィニヨン50%、マルベック27%、カルメネール17%、プティ・ヴェルド6%。2021年は適度に涼しい気候で、平均的な降雨量に恵まれたため、ブドウはフレッシュな酸を残して成熟。イチゴやカシス、バラの花びらの香りとスパイスやカカオのニュアンス。2021年ヴィンテージは、ワイン評論家ジェームズ・サックリング氏から100点を獲得