父の資産を私的流用する姉が許せない!介護方針も異なる姉妹の話し合いは平行線 その後

AI要約

成年後見制度について、その制度の意図や後見人の役割、そして実際のケースでの問題点について考察する。

認知症患者の資産管理を巡る家族間の対立や介護方針の違いがバリアとなる事例を通じて、後見制度の課題に焦点を当てる。

個人情報保護と家族間のコミュニケーションが求められる中で、認知症患者の利益を最優先に考えるためにはどのようなアプローチが求められるかを考える。

父の資産を私的流用する姉が許せない!介護方針も異なる姉妹の話し合いは平行線 その後

認知症のケアや医療の現場にある様々なバリア(壁)。どのようなバリアがあり、それを超えていくために、私たちには何ができるのでしょうか。大阪の下町で、「ものわすれクリニック」を営む松本一生先生とともに考えていきます。今回のテーマは、「成年後見制度のバリアを超える」です。

みなさん、成年後見制度についてどれくらいご存じでしょうか? 「後見」という言葉から、自己判断ができない子どもにかわって大人がその後ろ盾をする、というイメージを持っておられる方もいるのではないでしょうか。おとなの場合にも認知症やメンタル領域の病気のために判断能力が伴わない人のために成年後見制度があります。けれど、こうした人々も「すべての人間としての権利」がなくなるわけではありません。主に土地や資産を守る制度としてできたのが、この成年後見制度です。

ボクは精神科医なので、これまでに、認知症のために自分の財産管理ができなくなった多くの人の後見開始の診断書を書いたり、家庭裁判所から依頼を受けて鑑定をおこなったりしてきました。今回の話はその後見制度を巡る「バリア」について考えたいと思います(今回は任意後見ではない場合の話です)。

この制度には支援が必要なレベルによって後見、保佐、補助があり、後見はその支援が最も大きいものです。後見人になる人は家族のほか、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門家、そして市民が研修を受けて後見人となる市民後見人などがあります。先にも書いた財産をどのように管理するかを「財産行為」と言います。本人に判断力が伴わないため、その人に代わって財産を守る制度ですが、少なからぬケアの場面で「バリア」が表面化することがあります。

個人情報保護のために事実の一部を変更し、仮名で紹介しましょう。

大貫貞夫さんはアルツハイマー型認知症になって7年が経過した78歳の男性です。特に資産家ではなかったのですが、65歳で会社を退職した時の退職金や土地などを持っていました。妻は大貫さんが退職する2年前にがんで亡くなり、2人の娘さんが交代で大貫さんのケアを担当していました。

娘は両人ともに、大貫さんの資産は全てケアのために使うことに賛成していました。そこでより多くの時間を大貫さんと過ごす長女が金銭管理をするようになり、近くに住む次女がサポートする体制を作っていました。

ところがある年、ケアのために長女が勤務先を退職することになりました。体調がすぐれなくなったことも理由のひとつです。次第に長女は自分の生活資金も大貫さんの預金から支払うようになりました。それを見た次女が「勝手に資産を使い込んでいる」と言い出し、姉妹は仲たがいをするようになってしまいました。

お互いが納得できるように2人は司法書士に相談して大貫さんの金銭管理を頼むかどうか話を進めようとしましたが、その時に表面化したのが、この先、どのように大貫さんをケアしていくかについての意見の違いでした。姉はあくまでも在宅ケアをし続けることを望み、妹は早めにグループホームなどに入居して、安定した日々を送ることが大貫さんの経済的な安定につながると考えました。せっかく2人が同じように大貫さんの生活の安定を考えたにもかかわらず、介護方針の違いでも対立することになってしまったのです。