「好きだよ千恵子」97歳 最初で最後のラブレターになった「全国ふれあい短歌大会」の最優秀賞作

AI要約

宮崎市で開催された全国ふれあい短歌大会での最優秀作品、長倉幸夫氏の歌を紹介。

長倉氏が97歳の時に詠んだこの歌は、愛妻に向けたストレートな表現が印象的。

長倉氏の歌は愛する妻への想いが詰まっており、亡くなられた後もその愛情が感じられる。

「好きだよ千恵子」97歳 最初で最後のラブレターになった「全国ふれあい短歌大会」の最優秀賞作

親が決め時代遅れの見合婚今こそ言おう好きだよ千恵子  長倉幸夫

 昨年12月2日に宮崎市で開催された「心豊かに歌う全国ふれあい短歌大会」の最優秀賞作品です。

 どうでしょう。このストレートな表現。長倉さんは宮崎県都城市在住で当時97歳です。結句の「好きだよ千恵子」。頭で考えただけの歌であれば、こんな迫力は出なかったでしょう。最優秀賞はいつも悩むんですが、この時は迷わずこの歌に決めました。

 愛妻の千恵子さんが施設に入る時の歌とも、亡くなられた後に長年の思いを込めた歌とも取れる。どんな状況で詠まれたのだろうと想像を巡らせていました。

 表彰式当日、長倉さんは千恵子さんの遺影を手に、孫娘の大浜直美さんに付き添われて出席されました。ステージで僕が長倉さんに話を伺いましたが、何分にも耳が遠く、大浜さんが通訳です。

 「実は11月28日に祖母が息を引き取り、昨日、葬儀を終えたばかりです」

 大浜さんが話し始めると客席がどよめきました。

 「表彰式に出るかどうか迷ったんですが、親戚一同で祖父と話し合い、ここに来ると決めました」

 僕は事前に事務局から、千恵子さんが亡くなられたけれど表彰式に出席されると聞いていました。この大会の応募者は100歳を超えた方も結構おられて、受賞が決まった後、本人が亡くなられるなどいろんなことが起こるんです。それにしても長倉さんは葬式の翌日によく来てくださった。

 昨年夏、長倉さんはデイサービスで施設の職員から「こんな大会が短歌を募集しているよ」と勧められ、初めて作ったのがこの歌。ちょうど千恵子さんが介護施設に入り、離れて暮らしている時でした。

 そして11月下旬、長倉さんが最優秀賞に選ばれたという新聞記事に気づいた介護施設の職員が「載っとるよ」と教えると、千恵子さんは「うれしい」と喜ばれたそうです。亡くなられたのはその6日後でした。

 遺族は告別式の司会で受賞に触れてほしいと葬儀場に話をしたら、歌を書いた額が受付に置かれていた。

 出棺前、「この短歌をお納めになりませんか」と係に声をかけられ、遺族が寄せ書きと歌を書いた紙をお棺に入れようとすると、長倉さんが突然、この歌を大きな声で詠み上げたそうです。千恵子さんに聞こえるようにと思われたんでしょうね。「最初で最後のラブレター」。長倉さんはそうおっしゃっていました。(聞き手 神屋由紀子)