息子が父親を「アイツ」呼ばわり…。受験直前に親子関係が険悪です【小川大介先生の子育てよろず相談室セレクション】

AI要約

小川大介先生が、中学受験に悩む親子の事例についてアドバイス。親の計画通りに子どもが動くという幻想を捨て、子供の気分を考慮した行動計画の重要性を説く。

子供が行動できるようにするためには、計画表に子供自身の気分情報を加える必要がある。子供の気分を盛り上げるために計画を作るのではなく、子供の気分に合わせて計画を立てることが重要。

父親と子供の関係修復のために、儀式化した調停会議を通じて理性を働かせた話し合いをすることが提案される。息子の抵抗を受け止めながら、共に解決策を模索することが大切。

息子が父親を「アイツ」呼ばわり…。受験直前に親子関係が険悪です【小川大介先生の子育てよろず相談室セレクション】

教育家の小川大介先生が、悩める親たちにアドバイス。「うちの子のこんなところが心配」「私の接し方、コレでいいの?」など、子育てに関するありとあらゆる悩みにお答えしてきた『小川大介先生の子育てよろず相談室』。その中から、特に反響の大きかったお悩みを漫画でご紹介します!

■Wさんのお悩み

もうすぐ中学受験本番を迎える小6の息子がいます。勉強に関しては、夫が細かく進捗管理しており、Excelで苦手な単元を色分けした表を作成。計画的に「今日はここからここまで」と、課題を設定してから毎朝出社しています。ところが当の息子はというと、相変わらずのんびりマイペース。塾のある日は帰宅後すぐに塾に行くものの、塾のない日は家でダラダラ漫画を読んだりテレビを見たりしています。夫が帰ってくる時間になって慌ててやり始めるものの、全然終わるはずもなく…。初めの頃は夫も堪えながら対応していたのですが、そろそろ本番も近づいてきて夫もナーバスになってきました。最近は息子に対して「お前何やってんだよ!」と結構激しく責め立てることも。息子は泣いて謝り、その後数日は持ち堪えるのですが、何度も同じことを繰り返しています。次第に、息子は父親を怖がるようになり、「アイツが帰って来たらヤバイ」と、父親のことを「アイツ」呼ばわりするようにも。この状況はかなりまずいと思っているのですが、受験直前の親子の向き合い方としてどうすればいいのか、アドバイスをいただきたいです。(Wさん・42歳)

■小川先生の回答

■「計画通りに子どもが動く」という幻想を捨てる

計画を作る親の大半が失敗する理由は、「計画を作ればその通りに動く」となぜか勘違いしているからです。目的は計画ではなく、子どもが行動できるようにすることですよね。そのツールとして計画を作るというのが正しい順番のはずなのに、計画を立てること自体が目的になっていて、その計画で実際に子どもが動けるかどうかの検証がマルっと抜けてしまっているのです。それでは、うまくいくはずありませんよね。

色分けされた計画表を見ただけで、行動がイメージでき、淡々と動けるデジタルタイプの子もいますが、大半の子は気分で動くもの。その気分を盛り上げて行動をおこさせるためには、Excelで作った表など何の役にも立ちません。必要なのは、いかにその子の気分を組み立てていくかという設計図です。つまり、Excelの表は子どもの気分を盛り上げる役割である親のためにあるもの。それを子どもに渡して動き出すはずがないということを、まずは理解しましょう。

■気分の情報を追加し、動ける計画表にバージョンアップ

実際に子どもが動けるような計画にするためには、本人の気分の情報も加えるのがおすすめです。苦手単元一覧表であれば、それぞれの単元に対して、本人がどんな気分を抱いているのかも記入するようにしましょう。「最悪」「大体いけそう」など、本人の気分言葉でいいので書いていくと、自分で動けるものと、そうでないものが、はっきり分かれてくると思います。「嫌だ」「無理」「難しい」などは、「一人ではできません」と言ってるのと同じこと。つまり、課題に手をつけずにいたのは、怠惰でも、ごまかしてるわけでもなく、おそらく一人ではできないものが多く並んでいて、気分が乗らなかっただけなのです。完全なる設計ミスですね。一人では難しいものであれば、週末など親が一緒にいられる時間に回したり、塾の先生に力を借りて自習室でやるようにしたりなど、一人でやらなくてもいい環境を作ってあげる必要があります。

また、お父さんが帰ってきたら、息子さんが慌ててやり始めるというのも、まさしく気分が動いたからに他なりません。父というわかりやすい存在が来てイメージが湧いたから、「やらないとヤバイ」と動く理由ができ、動いたわけですよね。そうであれば、そこの気分をどう動かしたらいいのか考えてみるのも有効です。夕方に電話一本入れるだけでも違ってくるかもしれませんよね。そうやって、本人が動ける計画や環境を整えてあげましょう。

■抵抗するのは自分が崩れていない証拠

父親のことを「アイツ」と呼び始めたのは、本人の精一杯の抵抗。戦おうとしているということは、まだ自分が崩れていないという証拠でもあるため、悪いことではありません。逆に、「はいはい」と生返事をしたり、「やればいいんでしょ」と無気力にブツブツ言うほうが、ちょっと危険ですね。外に吐き出さずに、内に貯め込んでいる状態なので、根深いことになりかねません。

息子さんの場合は、今は本人なりに自分に満足しているものがあるから、抵抗できているのだと思います。ただ、それがあまり長く続くと、やはり自己否定に向かうことも。父親のことを嫌いになっても、入試が終わればまた好きになるからいいのですが、自分を嫌いになると復活するのは非常に困難。それはまずいので、やはり一度関係修復に動く必要はあると思います。

■儀式化した休戦調停で理性を働かせた話し合いを

とはいえ、急に理解のあるような父親の顔になり、「話し合おうよ」と柔らかく来られても、戦闘態勢に入っている息子さんにとっては、不信感が増すだけでしょう。そこで母親の出番です。「只今、我が家は危機に瀕しているので、調停会議を始めます」と宣言して、休戦の調停に入りましょう。冗談みたいに聞こえるかもしれませんが、儀式化するということは、実はすごく大事なこと。日常生活の延長で、普段通りに会話しても、気持ちの切り替えができないため、演出が要るのです。会議の場を設定したり、母親ではなく「議長」と呼ばせたりなど、役に徹して自分の内面にある感情を外に出すことによって、理性を働かせることができます。そういった心理テクニックを駆使して、一旦矛を収めさせてあげましょう。

■小川先生からの「大丈夫!」フレーズ

『本人は戦う気があるので大丈夫。今から修正すればまだ間に合います』

受験では、できそうな問題をちゃんとおさえながら、チャレンジ問題についても「ここまではやってみよう」と本人が自分の気分と相談しながら、ギリギリまで挑む姿勢が大事になります。本人の気分を尊重した行動できる計画にバージョンアップして、できそうなことを現にできるという体験を積ませてあげましょう。自分のできそうなことをやるというモードに切り替えられたら、それはそのまま受験当日の強みになります。

■回答者Profile

小川大介先生

教育家。中学受験情報局『かしこい塾の使い方』主任相談員。

京都大学法学部卒業後、コーチング主体の中学受験専門プロ個別塾を創設。子どもそれぞれの持ち味を瞬時に見抜き、本人の強みを生かして短期間の成績向上を実現する独自ノウハウを確立する。個別面談の実施数は6000回を数え、受験学習はもとより、幼児低学年からの能力育成や親子関係の築き方指導に定評がある。各メディアでも活躍。著書多数。

漫画=きたがわなつみ/文=酒詰明子