職場復帰後の「ワーママ」に異変…大手建設会社が訴えられた「マタハラ」に周囲が“ドン引き”したワケ

AI要約

社労士が労務相談やハラスメント対応を通じて受ける相談の多様性と、グレーゾーンの問題に対処するための幅広い知識の必要性。

リスキリングを推奨する企業でのワーキングマザーの事例から、スキルアップ支援の重要性と教育コストについて。

ハラスメント相談から人事部への対応で浮かび上がる、育児と選考の関係におけるマタハラ問題。

職場復帰後の「ワーママ」に異変…大手建設会社が訴えられた「マタハラ」に周囲が“ドン引き”したワケ

 労務相談やハラスメント対応を主力業務として扱っている社労士である私が、労務顧問として社労士として企業の皆様から受ける相談は多岐にわたります。

 経済や社会情勢の変化によって労働問題やハラスメントの捉え方も変わり、「明らかにアウト」「明らかにセーフ」といった線が引きにくい時代になりました。

 社労士としてグレーゾーンの問題を取り扱ってきた経験では、こうした問題に対処するには労働法だけではなく、マネジメントや人事制度など幅広い知識が必要になります。

 エリア最大手の建設会社Y社に勤務していたワーキングマザー・Aさん(30代・女性)は、社内のMBA取得に関する制度利用に手上げしたところ、社内から顰蹙を買うことになりました。

 リスキリングを積極的に推奨する企業においてなぜAさんが非難の対象になったのか、マタハラとは何かを考えさせられる事例を<「会社のカネ」で出世したい…職場復帰後「マタハラ」を訴えた“モンスター社員”の「仰天行動」残業は断固拒否、仕事も手伝わない>に引き続き、紹介したいと思います。

 Y社に限らず、社員のスキルアップ・リスキリング(学びなおし)のための支援を行う企業は年々増えています。

 民間会社の調査では7割の会社が「社員のスキルアップ、学び直し」を支援していると回答しており、取組の内容としては「資格取得支援」が73.6%で最多になっています(「社員のスキルアップ支援」に関する企業調査(2022年5月)|株式会社学情)。

 その一方で、実は業務に必要な資格であっても、企業がその取得にかかる費用負担をしなければならないという法的義務はありません。

 しかし、変化の大きい社会の中でDX人材を確保したり、成長分野への知見を得て自社の利益拡大を目指すためには会社から人材への投資が不可欠です。そのため、様々な形で社員の自主的な学びを支援する仕組みをもつ企業が増えているのです。

 しかし、これらの教育コストは決して安いものではありません。

 Y社の例では毎年120万円を1人当たりの予算として見込んでいますが、従業員1人あたり研修費用の2022年度実績額の平均は32,412円であることを考えると、思い切った投資であるといっても過言ではありません(2023年度 教育研修費用の実態調査|産労総合研究所)。だからこそ、投資に値する人材を選びたいと考える企業の意向はもっともだと言えます。

 Aさんは選考に漏れたことを不服と感じ、社内のハラスメント相談窓口に自身の事例を「被害」として申告しました。

 窓口から報告を受けた人事部は、選考は勤務成績や日頃の評価、選考時面談やレポートを総合的に判断したものであり、育児をしていることが落選の理由ではないと説明しました。

 しかしAさんは勤務成績が不良なことは認めたうえで、それは育児のためであり、考慮すること自体がマタハラではないかと反論してきました。そのため、人事部から社労士の私のもとへ相談が寄せられることになったのです。