「安すぎる」電子タクシー券配布2000円→4000円に 物価高対策、迷走する佐賀市

AI要約

佐賀市が物価高対策のための地方創生臨時交付金を巡り、電子タクシー券の配布計画に疑問が浮上している。

市議会で市民へのタクシー券配布金額や対象者の絞り込みで議論が巻き起こり、4千円分を1万人に配布する修正案が提示された。

識者は物価高騰対策の交付金でタクシー配車アプリの導入促進が適切か疑問を呈している。

 国が物価高対策のために用意した「地方創生臨時交付金」を巡って、佐賀市が迷走している。電子タクシー券2千円分を2万人に発行する計画に対し、市議会で「安すぎる」「対象者を絞るべきだ」と異論が続出。4千円分を1万人とし、高齢者らを優先的に配る内容に修正した。ただ、市が事業の目的の一つに掲げる「タクシー配車アプリの導入促進」について、識者は「物価高騰対策の交付金の使途として適切だろうか」と疑問を投げかけている。 (田中早紀)

 「考え直すべきじゃないですか」。8月26日の市議会建設環境委員会で、野中宣明委員(公明党)が、市の担当者に強く迫った。

 問題となったのは、市議会定例会に提案された本年度一般会計補正予算案の「電子タクシーチケット発行事業」。国の物価高騰対応の地方創生臨時交付金を主な財源に、市が市民2万人にタクシー券2千円分を配るという内容だった。今秋に市公式アプリで希望者を募り、当選者が配車アプリで使える仕組みだ。

 これに対し、他の委員からも、チケット発行金額の引き上げや、免許返納後の高齢者や妊産婦、障害者らへの優先発行を求める意見が相次いだ。このため、市は同月29日の委員会で4千円分を1万人に配る修正案を提示。応募が多数の場合、高齢者ら交通弱者を配慮する方針も打ち出した。

 委員会は今月2日の採決で、この事業費約6175万円を可決した。「制度設計について事前の調査検討が十分ではない」として、事業の進展の報告を求める付帯決議も付けた。

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 事業を巡っては、別の問題が残る。市の計画で、タクシー券を使えるのは市内の14事業者のうち、配車アプリに対応している3社のみで、業界の一部に公金が投入されることになる。配車アプリの利用に慣れていない高齢者が置き去りにされる懸念も強い。

 市の狙いは、どこにあるのか。市によると、2022年度の市内のタクシー輸送人員は、5年前の約6割に減少。タクシーの総走行距離のうち、客を乗せた分は4割程度というデータもあるという。配車アプリが市民に浸透すれば業務効率が上がり、経営改善につながる-。市は電子タクシー券配布で、物価高騰に苦しむ市民の移動支援に加え、タクシー事業者支援も重視していると明言する。

 一連の委員会審議では、事業者間や地域間で格差が生じる恐れを指摘する声も、委員から出た。市交通政策課の担当者は「他社のデジタル化に関してもアプローチを続けたい。一時的な需要喚起ではなく、タクシーを身近で持続可能な公共交通の一つとして残す第一歩だ」と理解を求めた。

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 内閣府によると、国は23年11月、地方創生臨時交付金で「物価高騰対応重点支援」を導入した。事業予算には、予備費を含めて2兆6903億円を準備。一部は自治体が個別の事情に応じてきめ細かく支援に回せるよう、制度は自由度が高く設計されている。

 佐賀市はこれまで、学校や保育所での給食費補助、電子地域振興券発行などに活用してきた。今回の電子タクシー券配布について、一橋大の佐藤主光教授(財政学)は「デジタル化の重要性は理解するが、物価高騰対策の交付金で行政が介入する必要性があるかは疑問だ」と指摘する。

 国の地方創生臨時交付金を巡っては、新型コロナウイルス対策で、公用車の購入や花火などのイベント開催といった不適切な使途が全国で相次いで発覚した経緯がある。佐藤教授は「地方に広い裁量があることは望ましいが、佐賀市の電子タクシー券発行事業を含め、国も自治体も効果を厳しく検証していくことが重要だ」と話している。

 国の「物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金」について、全国の自治体は、住民税非課税世帯など低所得世帯への給付金を軸に、さまざまな施策を実施している。県内でも、大町町の省エネ家電やエコカー購入の補助事業、白石町の18歳以下へのデジタル商品券2万円分配布など、特色のある取り組みが広がっている。