「フェリーの待ち時間に仕事がしたい」島しょの自治体・竹富町がM365で進めるDX

AI要約

沖縄県の竹富町がMicrosoft 365の利用を開始し、待ち時間を有効活用する取り組みが始まる。

竹富町の業務効率化やテレワーク推進の取り組みについて詳細に解説。

限られた予算とIT人材の中でDXが進められる竹富町の事例が示唆する他自治体への可能性。

「フェリーの待ち時間に仕事がしたい」島しょの自治体・竹富町がM365で進めるDX

日本最南端に位置する沖縄県の竹富町が、間もなくMicrosoft 365の利用を開始する。離島間の移動における“待ち時間”に仕事ができるようになるという待望の変革だ。

 「朝、フェリーで島に着いて、予定していた業務が5分で終わる。帰るための船までには時間があるが、フリーWi-Fiやパソコンがあっても、やれることが何もない」(竹富町役場・DX課、久保田氏)

 

 日本最南端に位置する沖縄県の「竹富町」。人口は約4300人で、9つの有人島と7つの無人島からなる島しょ(とうしょ・大小の島々という意味)の町だ。NHKの朝の連続ドラマ「ちゅらさん」の舞台としても有名である。

 

 そんな竹富町の庁舎は、実は同町の中にはなく、隣の石垣市にある。そのため、町内への外出には常にフェリーを使うことになり、便数が少ないため待ち時間が多く発生する。しかし、庁舎外からは業務の要であるグループウェアにアクセスできず、冒頭コメントのように無駄な時間が生じる――。

 

 この問題を解消するため、竹富町が間もなく運用を開始するのが「Microsoft 365」(M365)だ。竹富町役場のDX課に所属する久保田祐人氏、古見勇樹氏に詳しく聞いた。

 

町内への移動はフェリーが基本、次の便までの待ち時間を持て余す職員の日常

 竹富町の庁舎が石垣市にあるのは、同町のすべての島が石垣島の港とつながっており、島民にとってそのほうが利便性が高いからだ。ちなみに同様の体制をとる自治体としては、鹿児島県の三島村、十島村がある。

 

 竹富町内の出張所は、西表島に2か所、波照間島に1か所のみで、ほとんどの町職員が石垣市に住んでいる。そのため、住民サービスを直接提供するには、そのつど町内の島にフェリーで移動する必要がある。

 

 久保田氏は、「町内に出かけるたびに、乗船券を買って船に乗るといった日常。とにかく移動コストがかかる。例えば(最南端の)波照間島で作業するには、1万円弱の出費が伴う」と語る。とはいえ、町民の検診や災害対応、建設関連の確認、祭事の開催など、現地でなければ対応できないことは無数にあり、年間100回ほど島を訪れる職員もいるという。

 

 外出のたびに、交通費に加えて“無駄な時間”が発生するのも悩みだった。

 

 島によっては1日2、3往復しか船便がなく、間が2時間以上空くのが基本。さらに、冬場や台風シーズンには欠航もよく起こる。その結果、「1回の外出につき3~4時間ほどの空き時間」が生じるという。

 

 この空き時間を業務に有効活用できればよいのだが、そうもいかない。庁舎外からは、メールやスケジュール管理などを担うグループウェアやファイルサーバーにアクセスできない。さらに、モバイル通信が弱い場所も多いため、リモートデスクトップでは重くて仕事にならない。

 

庁舎内外を問わずMicrosoft 365にアクセス、足りない機能はAvePointのツールで補完

 このような地理的事情と制約がある中で、職員から「デジタルで業務を効率化できないのか」と声が上がるのは自然な流れだった。

 変革に前向きな町長の就任もあって、2023年度には「DX課」が新設される。「竹富町DX推進計画」も策定され、町民が庁舎に来なくても各種手続きができるよう、行政サービスのDXを推進することになった。「同時に、職員自身もどこでも同じように業務ができる環境づくりが急務になった」と古見氏。

 

 そこで、従来のグループウェアやチャットツールといった業務ツールは、新たに導入するMicrosoft 365へ一本化し、庁舎内外のどこからでもアクセスできるよう、ネットワーク環境も整備することになった。

 

 Microsoft 365ではなく「Google Workspace」という選択肢もあったが、国や県とはOffice製品でのやりとりが多く、職員も慣れていることが決め手となった。外部からのアクセスを想定したセキュリティ機能が充実しており、300人までの利用制限が同町の規模感にマッチしている「Business Premium」プランを選択している。

 

 Microsoft 365など特定のクラウドサービスへの通信は、庁舎外からは直接インターネットで、また庁舎内からは「ローカルブレイクアウト」の仕組みを使って実現する。これにより、約150名の職員はどこにいてもMicrosoft 365を利用できるようになる。なお、ローカルブレイクアウトを実現するために、A10ネットワークスのADC+ファイアウォール製品「A10 Thunder CFW」を導入した。

 

 一方、Microsoft 365に業務ツールを集約することで、従来のグループウェアで活用していた、車両や会議室の予約、スケジュール共有といった機能が使えなくなる問題が発生した。「自分達で何とかしようにも、『SharePointって何?』『Teamsはウェブ会議ができるやつだよね?』程度の知識しかない我々ではどだい無理。悩んでいた中で、紹介されたのがAvePoint社だった」と久保田氏。

 

 ノーコードでMicrosoft 365を機能拡張できる「AvePoint Portal Manager」を用いて、足りなかった機能をTeamsアプリとして実装することで、アプリケーションを増やすことなく問題を解決した。

 

予算が乏しい、IT人材がいない自治体でもDXは進められる

 竹富町では、2024年8月からMicrosoft 365の運用を開始する予定だ。あわせて貸出デバイスの整備や電子決裁の仕組みなども整えており、これを機にテレワークを本格的に推進していく。

 1回の外出で発生する3~4時間ほどの空き時間は、タイムリーな情報共有や島民への対応といった、より質の高い行政サービスの実現にあてていく方針だ。

 

 どこにいても気軽にチャットやウェブ会議ができるようになることで、職員同士のコミュニケーションが活性化されることも期待しているという。AvePoint Portal Managerでは、職員向けのポータルサイトも構築して、庁内のニュースや町長からのメッセージ、各課の取り組みなどを発信していく予定だ。

 

 今後は「AvePoint Cloud Governance」を用いて、職員やチームごとに外部連携サービスを制御するなど、セキュリティと働きやすさを両立させた環境整備を続けていく。

 

 また「Copilot for Microsoft 365」による生成AIの活用にも興味があるという。コストの問題はあるものの、「環境的に問題なければ使いこなせそうな職員から試してみたい」と久保田氏。

 

 竹富町のDX課は始動してまだ2年目。ITに詳しい職員は一人もおらず、「困ったらITベンダーに問い合わせ、経験を蓄えて、の積み重ね」でここまでやってきたと古見氏。エラーが発生したり、新たな機能が必要になるたびに、DX課内でカバーしあい、ITベンダーとのやり取りに必要な共通言語を苦労して取得しながら進めてきた。

 

 久保田氏は、「人口規模や予算感、自主財源も乏しい。ITの専門知識を持った職員もいない。そんな竹富町でもこれだけできるというのは、他の自治体でも『いけるかな』と思ってもらえるのではないか」と呼びかけた。

 

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp