現場主義とソフトで進化 エレベーター移動できる自動遠隔ロボ「ugo」

AI要約

ugo株式会社は、業務用ロボット「ugo(ユーゴー)」をさまざまな現場に提供し、人手不足など課題解決に挑んでいる。

ugoの開発経緯と警備業界への展開。

ugoの特徴と将来展望。

創業当初は家庭用ロボットを目指していたが、警備業界への展開を果たした背景。

ugoが問題解決に貢献する現場でのユニークな特徴。

ugoのロボット活用事例と現場での進化。

ugoのビジネスを成功させるために現場経験が不可欠である理由。

ugoが目指す新たなビジネス展開と海外進出計画。

ugoの成長における重要性をコメント。

現場主義とソフトで進化 エレベーター移動できる自動遠隔ロボ「ugo」

ugo株式会社は、業務用ロボット「ugo(ユーゴー)」をさまざまな現場に提供し、人手不足など課題解決に挑んでいる企業だ。具体的には、警備やデータセンターの点検作業などにロボットを提供し、現場作業の改善を図っている。代表取締役CEOである松井健氏は、「机上での議論ではなく、現場での体験の積み重ねがビジネスを進める大きな力になった」と話す。大企業との連携や資金調達などが難しいとされるハードウェア、ロボットビジネスを進展させた要因はどこにあったのか、松井氏に話を聞いた。

 最近では、さまざまな場所でロボットを目にすることが多くなった。家庭内で働く掃除ロボットをはじめ、ファミリーレストランの配膳、オフィスビルの中でも掃除や見回りを行うロボットを見かける。

 

 ugo株式会社は、業務用ロボット「ugo(ユーゴー)」をさまざまな現場に提供し、人手不足など課題解決に挑んでいる企業である。具体的には、警備やデータセンターの点検作業などにロボットを提供し、現場作業の改善を図っている。代表取締役CEOである松井健氏は、「机上での議論ではなく、現場での体験の積み重ねがビジネスを進める大きな力になった」と話す。大企業との連携や資金調達などが難しいとされるハードウェア、ロボットビジネスを進展させた要因はどこにあったのか、松井氏に話を聞いた。

 

 東京都千代田区、秋葉原からも近い場所にあるugoのオフィスの中には、たくさんのロボットが並ぶ。「ugo=ユーゴー」という社名は人間とロボットの「融合」を目指してつけられたものだ。

 

「社名と同じ、ugoというロボットを提供しています。このオフィスで、開発をはじめ、工場としてロボット製造も行っています」と笑顔でロボットを紹介するのは、創業メンバーであり、代表取締役CEOの松井健氏。

 

「ugoのメインの導入先は警備業界です。さまざまな業種で人員不足が大きな問題となっていますが、警備業界もそのひとつ。ロボットを導入することで人手不足を解消できると期待されています」(松井氏)

 

家事ロボットから警備用ロボットの開発に転換

 創業当時から警備業界など産業向けロボットビジネスをやろうとしていたわけではない。2018年の創業当時は、「家事代行のサービスをやろうとしていました。日本の生産性を上げるためには、家事労働が大きなハードルとなっているのではないか。家事労働を代行することで、日本が抱える社会課題の解決につながると考えたからでした」とロボットを家庭に導入することを目指していた。

 

 しかし、家庭へのロボット導入は容易ではない。まず、家庭で利用する際、掃除など特定用途に絞り込むならともかく、汎用的な用途で利用できるロボットを開発するためには、さまざまな動作や機能を盛り込む必要がある。例えば洗濯だけを考えても洗濯物を洗濯機に入れ、取り出し、干し、取り込むといった一連の作業があり、そのすべてに対応できるロボットとなると、ハードウェア的にもソフトウェア的にも多様な機能が必要になる。

 

 しかも利用する現場の状況は家庭によってまちまちで、利用環境が一定の工場とは異なる。洗濯という同じ作業をするにしても、広いスペースがある家庭もあれば、余分なスペースがない家庭もあるわけで、部屋の形や家具の配置も異なる。「どんな家庭でも利用できるロボット」を実現するのはそもそも難しいのではないか。

 

 そう質問すると松井氏は苦笑しながら、「はい、家事を代行するロボットを家庭に導入する事業を展開するのは簡単なことではありませんでした。創業から1、2年で行き詰まりました」と明らかにした。

 

 当時はビジネスの先行きを見込めず、「会社もつぶれかけるくらいの状況にまで追い込まれていた」という。そんなとき、「このロボットを警備に使うことはできないか?」という声が外部から寄せられた。「ビルメンテナンスをやっている企業をご紹介いただいたことがきっかけでした」。

 

 ビルのメンテナンスや警備にロボットを活用することには、すでに複数の企業が取り組んでいた。警備会社自身が取り組んでいるケースや、スタートアップ企業でこの分野に取り組んでいるケースもあった。そんな中、ugoのロボットが評価されたポイントは家事代行をすることを想定してつけた二本の腕だった。

 

「腕があることで、オフィス内の移動だけでなく、エレベーターのボタンを押して異なる階へと移動することもできるのではないかという声があがったのです」(松井氏)

 

 多くの企業がロボットを活用した警備に取り組んではいたが、異なるフロアの移動に課題があった。オフィスビルの場合、人間は階段やエレベーターで容易に移動できるが、ロボットにはこれが簡単なことではない。同じフロアであれば問題なく移動し利用できても、複数のフロアにまたがる警備を行うロボットの開発は難しかった。

 

 そんな中、二本の腕を持っているugoであれば、ロボットがエレベーターのボタンを押して移動できるのではないかと、警備ビジネスへの活用提案があったのだ。

 

武器になったのは二本の腕と現場に応じて最適化するという発想

 松井氏は、ugoに警備ビジネスの参入提案があった背景を次のように分析する。

 

「採用する側に話を伺うと、『ロボットを導入すること』自体が目的ではないのです。人手不足、コストを抑えるといった課題解決が導入目的です。二本の腕があることが現実的な課題解決につながるのではないかということだったのではないかと思います」(松井氏)

 

 さらに、ugoには二本の腕とともに産業現場で活用するのに適した仕様があった。ugoはパソコンで操作するアプリケーションを通じ、ロボットの管理、業務フロー、自動化プログラム作成などを行うことができる仕様となっていたのだ。

 

「競合メーカーのロボットを見ると、ハードウェアもソフトウェアも『完成形』という発想のものが多かったのです。当社はロボットに対しても、パソコンやスマートフォンのようにアプリで動かすことで、現場に応じて最適化することを目指していました。それも、ロボットを導入した現場担当者が自分たちの現場に適したものに調整できるようなことを想定していたので、ユーザーが『こうしたい。こうなってほしい』というものへカスタマイズできると考えてもらえるようになったのです」

 

 競合製品は、決まった用途で動かし、アプリケーションの書き換えが必要になった場合には、ユーザーではなく、システムインテグレーターのようなプロがプログラムを書く。ユーザーがプログラムに介入することは想定していない仕様となっていた。それだけに現場のユーザーがカスタマイズできることが大きな差別化となったのだ。

 

 さらに、この仕様は、現在、ugoが進めている新しいビジネスへと乗り出すきっかけとなっている。「現在では、ロボットというハードウェアを提供して終わりではなく、クラウドアプリケーション『ugo Portal』を通じ、1台または複数台のロボット管理、業務フローや自動化プログラムの作成や遠隔操作などをノーコードで行うことができるプラットフォームビジネスをスタートしています。ロボットを通じたサービスを提供する企業へと発展していくことが、今後の当社のビジネスの目標となっています」と松井氏は言う。

 

 ロボットを警備現場で利用することでスタートしたugoのB to Bビジネスだが、現在では警備用途だけでなく、施設メンテナンスが必要なデータセンターをはじめ、介護、物流、工場などロボットの利用場面が拡大している。

 

 これは、「ロボットやIoTを活用することで、いわゆる“現場DX”――現場を変革していきたいという要望が寄せられていることがきっかけとなっています」という。こうした各現場で利用するのに最適なアプリケーションを現場主導で、ノーコードで開発できることで、さまざまな現場をDXしたいというニーズに応える新たなビジネスへと発展している。

 

 ユーザー自身がアプリケーション開発できることで、ロボットの活用場面も拡大する可能性がある。「ユーザー発で、ここで使えるのではないか、という発想が生まれる可能性があります。ロボット自身の利用拡大につながる可能性もあります」。

 

 ビジネス形態としても、ロボットを活用したコンサルティングビジネスを試行するビジネスパートナーも出てきている。今後は認定パートナー制度のようなものも構築していく計画だ。ロボットも、二本の腕を持ったugo Proに加え、小型モデルで見回り業務に特化したugo mini、全方位移動が可能なugo Exと3種類のロボットがそろった。

 

「一台完結で利用することに加え、複数台のugoを用途に応じて利用していくといった利用方法も可能となります。さまざまな用途に使ってもらうことができるようになっています」と松井氏はさらなる利用拡大に意欲を見せる。

 

課題解決につながるのは机上ではなく現場

 今後は日本だけでなく、海外への進出も見据えている。「日本と同じように高齢化が進むといわれている韓国、中国から、ロボットの活用に興味があるという声をもらっています。東南アジアを含め、アジアから海外ビジネスを始められるように、準備を進めているところです」と松井氏は語る。

 

 こうして話を聞くと、当初の家庭用コンシューマ向けからビジネス向けに転身して以降は順調に事業が発展してきたように見えるが、「実際はそんなに順調に進んでいったわけではなく、問題にぶちあたって、現場に行って実際にロボットを動かしながら解決する糸口を見つけ、ノウハウを貯めて、また次に挑んで、問題にぶつかり、解決策を探るといった繰り返しをしてきた結果です」と松井氏は答える。

 

 これまでビジネスを続けてきた実感から、「とにかく机上の議論だけでは前に進まない。いや、議論していると前に進んでいるのか、進んでいないのか、わからなくなってくるじゃないですか。しかし、課題を抱えて現場に出向き解決方法を探すことで、机上では見えていなかった課題、さらに解決法が見えてきます。絶対に現場に行って解決する経験をしなければだめです」と松井氏は断言する。

 

 現場での体験の積み重ねが、ビジネスの改善につながるというのは、実感から来る言葉だろう。今後、日本だけでなく海外へとビジネスを拡大していく中でも、現場で培ったノウハウが大きな武器となるだろう。

 

文● 三浦優子 編集●ASCII STARTUP 撮影●森裕一朗