エイズを「根治」する術と、それに挑んだ男たち(後編)【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】

AI要約

エイズ根治の過去と現在の事例について紹介。

エイズ根治に成功した2人目の患者「ロンドン患者」の治療経過について。

科学者ラヴィがエイズ根治に貢献し、その功績が評価される。

エイズを「根治」する術と、それに挑んだ男たち(後編)【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】

連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第56話

エイズウイルスの発見・同定から40年余り。エイズの「根治」に成功した人は、人類史上わずか6人のみといわれている。後編では、エイズ根治の鍵を握る遺伝子変異について解説する。

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■ブラウン氏のその後

前編では、「人類史上初めてエイズを克服した男」として、「ベルリン患者」ことティモシー・ブラウンを紹介した。その後、「ブラウン氏がエイズを再発しないのか?」については、折々に調査された。しかし結局、ブラウン氏がエイズを再発することはなかった。

「なかった」と過去形で記したのには理由がある。ブラウン氏は2020年9月、コロナ禍の真っただ中に、再発した白血病によって帰らぬ人となった。つまり、エイズは克服できたものの、白血病は克服できなかったのである。

■ふたり目のエイズ根治の例、「ロンドン患者」

ブラウン氏がエイズを再発しなかったことによって、「『CCR5D32』の骨髄移植」が、エイズ根治のひとつの方法として実証されたことになる。

そして2019年、エイズ根治に成功した2例目が、イギリスから報告された。こちらもその治療が施された地名にちなんで、「ロンドン患者(London patient)」と呼ばれた。この治療が施されたのは、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン。そしてそれを主導したのが、なにを隠そう、このコラムにも何度か登場したことがある、ラヴィ(Ravindra Gupta、現在はケンブリッジ大学教授)である(15、17、53話など)。

53話でも少し触れているが、ラヴィとは、アメリカのコールドスプリングハーバーで毎年開催されるエイズウイルスの研究集会で、毎年顔を合わせているうちになんとなく仲良くなった。本当にそれだけをきっかけに、これまでの間、新型コロナについてのいろいろな共同研究を進めている。

ブラウン氏と同じような方法で「ロンドン患者」のエイズ根治に成功したラヴィは、その功績が評価され、2020年、アメリカの雑誌TIMEが選ぶ「今年の100人(The Most Influential People of 2020)」にも選ばれている。

ラヴィは私よりすこし年上で、上述のような素晴らしい功績をもつ科学者である。とてもすごいやつなのだが、それで偉ぶるところがまったくなく、そこがまたすごいなあ、と会うたびに思っている。