過去最高を連発していた大西洋の海面水温、急低下。科学者「なんでこんなことになっているのか…」

AI要約

大西洋の海面水温が急速に低下し、2023年以来の記録的な状態になっている。エルニーニョ現象の影響やラニーニャ現象への移行の兆候が見られるが、その原因は不明。

海面水温の変化はサンゴ礁にも影響を及ぼし、環境破壊や生物多様性の減少につながる可能性がある。また、エルニーニョやラニーニャ現象は世界的な影響を及ぼす可能性がある。

ラニーニャ現象の発生が遅れており、弱い状態であると予想されているが、その影響は今後注視される必要がある。

過去最高を連発していた大西洋の海面水温、急低下。科学者「なんでこんなことになっているのか…」

原因がわかるまで落ち着けない…。

1年以上にわたって観測史上最高を更新し続けた大西洋の海面水温が、ここ数カ月で記録的な低下ぶりを見せています。気味が悪いことに、科学者もなんでこんなことになっているのかわからないそうですよ。

6月は大西洋の大部分で海面水温が平年よりも1度から3度、一部の海域では5度高くなりました。決して6月だけがとんでもなく温かったわけではありません。記録破りの海面水温は2023年3月から続いています。そうそう、2023年は、世界の海洋の熱容量が5年連続で過去最高を記録した年でもあります。

この記録的な海面水温の高さは、人為的な気候変動も原因の一部ですが、2023年から24年にかけて発生したエルニーニョ現象も影響しています。米海洋大気庁(NOAA)によると、そのエルニーニョ現象は5月までに終息したそうです。

NOAAのデータを見ると、大西洋の海面水温が驚きの速さで低下中。6月以降、この時期としては0.6度から1.2度くらい低い状態が続いています。これは高い確率でエルニーニョ現象とは真逆のラニーニャ現象に移行するサインと考えられます。9月から11月頃にラニーニャ現象が発生すると、大西洋の海表面に冷たい海水が湧き上がってくるようになります。

エルニーニョ現象もラニーニャ現象も、貿易風や太陽からの熱、熱帯地域の降雨などが絡み合って引き起こされる複雑な現象なので、絶対にこういう道筋をたどるという決め手はありません。とはいえ、今回の大西洋の急激なクールダウンは不可解すぎて、どうしてこんなに急激に変化したのか、誰にもわからないようです。

マイアミ大学の博士研究員であるFrans Philip Tuchen氏は、New Scientistに次のように話しています。

考えられるすべてのメカニズムを検証しましたが、今のところどれにも当てはまりません。

海洋熱波は、壊滅的な環境破壊を引き起こす可能性があります。2023年から24年にかけて、大西洋の熱帯サンゴ礁域の99.7%が、海洋熱波によって白化現象が起こるレベルの熱ストレスにさらされました。海水温上昇など環境変化のストレスによって、サンゴは共生関係にある褐虫藻と呼ばれている微細藻を排出します。これが骨のようにサンゴが白くなる白化現象につながります。

サンゴの白化と死滅は、海洋の生物多様性に影響を与えるだけではありません。沿岸部のハリケーンやストーム、洪水の被害を緩和してくれるサンゴの恩恵も失ってしまいます。

エルニーニョ現象とラニーニャ現象は、海面水温の変化をはるかに超えて世界的な影響をもたらします。最近の研究は、エルニーニョ現象が世界中で数兆ドルものGDPの損失を招き、その影響は何年も残る可能性があると指摘しています。また、雨期が長期化するせいで蚊や有毒藻類、細菌が繁殖しやすくなるため、病気の発症率が高くなるおそれがあるそうです。

NOAAによれば、夏の間に始まるはずだったラニーニャ現象はちょっと遅刻気味で、秋に発生しても当初の予想よりも弱くなりそうです。いっそ欠席してくれた方がいいのですが…。

Reference: Cheng et al. 2024 / Springer Link, NOAA ENSO Blog