死亡事故も…車椅子の固定、不安定さは想像以上 増加する福祉タクシーの課題

AI要約

福祉タクシー事故が相次いでおり、高齢者2人が亡くなる事態が起こっている。福祉タクシーの安全性が問題視されており、事業者や行政の支援が不足していると指摘されている。

福祉タクシーの運転時の安全性の課題が明らかになっており、利用者の体勢が崩れるリスクが高い。運転手や行政のサポートが必要とされている。

福祉タクシーは利用者の日常生活を支える重要なサービスであり、安全性向上のためには運転技術の向上だけでなく、利用者の状況を理解しサポートすることが必要だとされている。

死亡事故も…車椅子の固定、不安定さは想像以上 増加する福祉タクシーの課題

 身体が不自由な人を目的地まで送迎する「福祉タクシー」。使用する車椅子やストレッチャーのまま車内に乗せることができるため、利便性が高い。長崎県内では今年に入り福祉タクシーの事故が相次ぎ、利用する高齢者2人が亡くなった。高齢化社会を背景に増加する福祉タクシーで安全が最優先なのは言うまでもない。実態を取材し、改善点を探った。 (鈴鹿希英)

 長崎市大橋町の国道で2月11日、福祉タクシーに乗車していた車椅子利用者の90代女性が急ブレーキ時に体勢を崩した。勢いよく前かがみの状態となり、右大腿(だいたい)骨を骨折。約3時間後に出血性ショックで亡くなった。

 タクシー運転手の70代男性によると、女性は自身の力で体を支えられない状態だった。後部座席に車椅子を固定し、乗車。助手席には家族が乗った。バックミラー越しに不安定な女性の様子を見ながら慎重に運転し、交差点にさしかかった瞬間、赤信号を見落とした。「赤信号ですよ」と家族に言われ、急ブレーキを踏んだ。「周りを気にせず、運転に集中できていれば」と悔やんでいる。

 3月には壱岐市で、別の福祉タクシーがガードレールに衝突した。後部座席に車椅子で乗っていた70代男性がシートベルトに胸を圧迫され帰らぬ人になった。2019年には大阪市で、21年にも埼玉県で死亡・重傷事故が発生している。

    ◆     ◆ 

 長崎市での事故例のようにブレーキ時に体勢が崩れるとはどういうことか。事故とは無関係のタクシー会社に協力を求め、記者が福祉タクシーを体験した。

 発車前に車椅子を複数箇所のベルトで固定し、車輪が動くことはない。いったん車が動き出せば、アスファルトのがたつきをリアルに感じた。「車両の上にみこしのように“車両”が乗る。車輪が動かずとも不安定です」(運転手)。

 試しに、普通車の運転時と同じようにブレーキをかけてもらう。上半身が大きく振られバランスを崩し、足で踏ん張り、手すりをつかんだ。想像以上に体がぐらつき、怖さを感じた。

 福祉タクシーの利用者は、足に力が入らない人が大半を占める。「お客さんは自分の力で自分の体を支えられない。慎重に運転している」という運転手の言葉に深くうなずいた。

 事故を防ぐ工夫を聞くと、(1)停止する際は一般車両よりも手前から減速し、そっとブレーキをかける(2)利用者の観察と運転の両立は難しいため、同乗者に様子を見てもらう-と教えてくれた。

    ◆    ◆ 

 国は25年度までに福祉タクシーを現行の2倍の約9万台にまで増やす目標を掲げる。ただ、安全性を担保するのは参入時の講習が一度あるのみだ。行政から事業者への継続的な支援や働きかけはない。長崎市の事故を起こした運転手は「事故事例を共有し、何が原因だったのかを行政から注意喚起しないとまた同じ事が起きる」と危惧する。

 安全性を高めるため、一部の福祉タクシー事業者は、自主的に講習会を開くなどして技術の確認や危険な道の情報共有をしているが、現場任せになっているのが現状だ。

 長崎純心大の飛永高秀教授(社会福祉学)は、福祉タクシーは利用者が長年続けてきた“日常生活”を継続させる役割があると強調。台数増加は必要なこととしつつ「現行の手薄いサポートのままでは、事故増加は防げない。運転技術だけではなく利用者の状況を聞き取る方法や心構えを定期的に学ぶことが、事業者も利用者も守ることにつながる」と指摘した。

 ストレッチャーや車椅子がそのまま乗せられる福祉車両を使用した介護保険適用外の送迎サービス。普通自動車のタクシー事業者と同様の第2種免許を取得するか、第1種免許のみ所持する場合は国土交通相認定の講習を受講すれば参入できる。運転手は介護福祉士などの資格を持っていることが多いが、必須ではない。利用者の身体状況により家族や施設関係者の同乗を求めている。国交省によると、全国に約4万5000台(2023年度)導入され、09年度から約3万台増加。県内では237台が登録されている。