77歳の“若手ドライバー”に会った!「免許返納」をしたくてもできない人もいるのだ【タクシードライバー哀愁の日々】

AI要約

タクシー会社のドライバー不足が深刻で、経営にジレンマがある状況が続いている。

高齢者ドライバーに対する社会の偏見に対して、運転技術を維持し安全運転する高齢者も多く、免許返納ができない人もいることを考慮すべきである。

高齢者ドライバーには重要な存在であり、安全運転を心がけることで事故を防げる可能性がある。

77歳の“若手ドライバー”に会った!「免許返納」をしたくてもできない人もいるのだ【タクシードライバー哀愁の日々】

【タクシードライバー哀愁の日々】#33

 いま、タクシー会社のドライバー不足が深刻だ。所有しているタクシーをフル稼働させることができない状態が続いているようだ。たとえて言えば、働き者の“鵜”の数は揃っているのに、“鵜匠”が不足しているということなのだろう。

 タクシー会社にしてみれば、運転さえできれば誰でも雇いたいという気持ちもあるが、それほど単純な話でもない。事故やトラブルを起こしそうな人間では結果としてコストがかかってしまうし、突然の欠勤などでシフトに影響を与えるようなドライバーでは問題がある。ドライバーの待遇を改善させれば応募者は集まるだろうが、それでは経営が成り立たない。会社側にはそんなジレンマがあるのだろう。

「一度は失業して、どうしたものかと思っていたら、拾う神はいるもんだね。おかげでまたタクシーを始めましたよ」

 ある日、非番の日に偶然街で何年ぶりかで会った同業の知人がそんなことを言う。現在、彼は77歳。勤めていた会社を75歳で「お役御免」になり途方に暮れていた。蓄えもほとんどなく、老夫婦2人の年金もわずか。仕事を辞めたら食べていけない。そんな彼だが、たまたま街で「乗務員募集」のポスターを見て会社に飛び込んだところ、一発で採用になったという。それまで会社の名前さえ聞いたことがない小さなタクシー会社だった。

「クルマも古いし、福利厚生もほとんどない。でも、働けるだけありがたいと思わなきゃね」

 彼は笑った。大手タクシー会社に比べたら、会社側のさまざまなフォロー体制に問題はあるものの、ぜいたくは言ってられないのだ。そんな彼が驚くようなことを言った。

「内田さん、オレ、その会社で一番の若手なんだよ。77歳でみんなから“クン付け”で呼ばれている。みんな、おじいちゃんばっかりだから……。なんかオレ、急に若返った気分でさ。年は取ってはいてもみんなベテラン揃いで運転技術は確かだけれど……」

 そして最後に「でも、うちのタクシーには乗らないほうがいいかも、ハハハ」と冗談とも本気ともとれる言葉を残して去っていった。私は「頑張ってください」と大きな声で見送った。

 この話で思い出したことがある。最近、高齢者ドライバーの事故がメディアなどでやたらと取り上げられるが、“ちょっとおかしいな”と感じることがある。

■「免許返納」をしたくてもできない人もいるのだ

 たしかに高齢者ドライバーの過失による悲惨な事故が起きていることは事実だ。被害者やその家族は本当に気の毒だと思う。しかし、高齢者だからといって運転をしてはいけないと言えるのだろうか。「高齢者ドライバーは事故の確率が高い」という統計的な証拠はあるのだろうか。ただただ雰囲気だけで「高齢者ドライバーは危ない」とされている気がしてならないのだ。

 もちろん年を取れば、視力、とっさの判断力、素早い動作などの面でさまざまな衰えが生じることは間違いない。だが高齢者であっても、これまで培ってきた技術を維持し安全重視の運転を心がければ事故は防げるのだ。彼らは社会にとって欠くべからざる“鵜匠”とも言えるのだ。

 もし、高齢者が運転できなくなってしまえば、交通手段に恵まれた大都市とは違い、へき地や過疎の町に住む高齢者は生きていけなくなってしまう。救急車が到着するのに2時間、3時間の場所に住む高齢者はどうなるのか。「免許返納」がときに美談として語られることがあるが、返納したくてもできない高齢者がいることも間違いないのだ。

 私自身、一介の“高齢鵜匠”に過ぎないが、「高齢ドライバー=悪」という社会のムードに対して、そんな思いを抱く今日この頃である。

(内田正治/タクシードライバー)