あなたの会社にもある? 男女の「間接差別」違法の意味

AI要約

東京地裁が確定した判決は、男性のみを対象とした家賃補助制度が男女雇用機会均等法違反の間接差別に当たると認定したものであり、17年ぶりの間接差別違法判決として注目されている。

間接差別の規定は均等法により2007年に導入され、違法性が初めて裁判で確認されたことから、今後の間接差別対策の重要性が浮き彫りとなっている。

男女の賃金格差についても、仕事内容による適正な評価が求められるべきであり、企業は賃金差の理由について透明性を持たせ、男女間の公平な報酬体系を構築すべきとされている。

あなたの会社にもある? 男女の「間接差別」違法の意味

 ほぼ全員が男性の総合職限定の家賃補助が、男女雇用機会均等法で禁じられた間接差別にあたるとした東京地裁の判決(※1)が確定しました。原告代理人の平井康太弁護士に聞きました。【聞き手・須藤孝】

 ◇ ◇ ◇ ◇

 ――判決の意義はなんでしょうか。

 平井氏 間接差別は、性別以外の理由で行ったことでも、実質的に性別を理由とした差別となるおそれがあることです。

 間接差別の規定が入った均等法が施行されたのは2007年です。それから17年たってはじめて間接差別が裁判で違法と認定されました。

 また均等法では間接差別は3類型(※2)が禁止の対象になっていますが、判決ではそれ以外も間接差別にあたると認めました。間接差別として違法と認められる範囲が大きく広がりました。

 ◇総合職と一般職

 ――ほかの会社でもあるのではないでしょうか。

 ◆かつては、男女を理由にした直接的な差別を問う訴訟が多くありました。訴訟の積み重ねで、直接的な性差別は許されないとなっていきました。

 そのなかで、会社は「総合職」「一般職」というコース別雇用制を採用し、コースの違いが待遇の違いの理由だと主張することが多くなりました。しかし、実際には、多くの会社で、総合職には男性が多く、一般職には女性が多くなっています。性差別を温存する隠れみのになっています。

 ◇表面的に整えても

 ――間接差別はどう証明するのでしょう。

 ◆直接差別の場合、差別の意図を原告側が立証しなければなりません。内心の問題なので立証が簡単ではありません。総合職に例外的でも女性がいれば、会社は「男女で分けてはいない」と言い、裁判所も直接差別だと簡単には言いにくいのです。

 一方、間接差別の場合は意図は必要ありません。実質的に差別であれば違法ですから、ハードルが下がります。今回の裁判でもそうですが、例外的に女性が入っていても、総合職が大部分男性であれば、間接差別が認められる可能性が十分にあります。

 総合職、一般職のような形で、表面的に差別ではない形を整えたとしても、実質的な差別があるかどうかが問われます。

 こうしたことは多くの会社であると思います。今回の判決をきっかけに、間接差別がないかどうか、会社が自ら検討すべきです。

 ◇男女の賃金格差は正当か

 ――男女の賃金格差があります。

 ◆総合職だから、ではなく、賃金格差が正当化される仕事内容かが問われます。違う仕事だから賃金が違うのは当たり前だ、で終わらせてはいけません。違う仕事であっても、同じ基準で評価すべきです。同じ基準で比較して同じ価値なのに賃金が違えば問題です。

 ――働く側がそのような仕組みを詳しく知ることは難しいことです。

 ◆制度は会社が作っていますし、証拠は会社がすべて持っています。待遇の違いに合理的な理由がある、と会社が主張するなら、会社が証明すべきですが、現在は働く側が立証しなければなりません。法制度をあらためる必要があります。

 ◇納得できないこと

 ――どこから取り組むべきですか。

 ◆男女の賃金格差を会社が公表するのが第一歩です。次になぜ格差があるのか、その理由が本当に合理的かが問われます。会社が情報を明らかにすることで、男女間で格差が存在することを数字上もはっきりさせることがスタートです。

 ――社会には納得できないことが多くあります。

 ◆今回の裁判でも、転勤している人だけに社宅制度を使わせていたのなら、裁判所も違法と判断しなかった可能性があります。しかし今回の件では、転勤していなくても、男性であれば使え、自己都合でも使えました。原告もどうして男性だけが利用できるのか、納得ができなかったのです。

 会社は自ら是正していかないと、今回と同様に、裁判所で間接差別で違法だと判断されるだけではなく、社会的に批判を受けることにもなります。(政治プレミア)

 ※1 東京地裁は5月13日、判決で、家賃補助制度の利用を総合職に限ることは「事実上男性にのみ適用される福利厚生で、女性に相当程度の不利益を与えていることに合理的理由はない」と認定。男女雇用機会均等法の間接差別に当たるとし、家賃補助の差額のほか、女性に精神的苦痛が生じたとして慰謝料を含む計約378万円の賠償を命じた。

 ※2 男女雇用機会均等法7条に基づく厚生労働省令に、①募集や採用で身長体重、体力を条件とする②募集や採用、昇進、職種の変更で、転居を伴う転勤に応じられることを条件とする③昇進で転勤の経験があることを条件にする――とある。