「生物多様性」は政治を動かすために“科学者”が生み出した…その言葉が普及した最大の理由は「定義があいまいだった」から

AI要約

生物多様性とは、多様な生物が存在することの意義や重要性について議論されるようになった概念である。

1970年代から80年代にかけて生態学者たちが、人類の活動によって生物学的多様性が脅かされていると警告し始めた。

1986年に生態学者ウォルター・G・ローゼンが、「Biodiversity」という新たな用語を提案し、生物多様性への関心を高めるきっかけとなった。

「生物多様性」は政治を動かすために“科学者”が生み出した…その言葉が普及した最大の理由は「定義があいまいだった」から

生物多様性という言葉をよく見聞きするが、この言葉について深く説明できるだろうか。

生物学者の池田清彦さんは、多様性を尊重するあまり、多様性疲れや不要なルールが増えていくことにつながるという。

著書『多様性バカ 矛盾と偽善が蔓延する日本への警告』(扶桑社新書)では、改めて多様性とは何かを解き、その社会における理想的な、必要最低限のルールについて考えを述べている。

そこからそもそも「生物多様性」という言葉が生まれた経緯について、一部抜粋・再編集して紹介する。

多様な生物が存在するということはすべての人にとって昔から自明だったけれども、その根拠はイデアあるいは神による創造から、「進化の結果」へと変遷してきた。

ただし、「多様な生物が存在すること」の意義やその重要性などについて一般に議論され始めたのは、実はつい最近である。

1970年代から80年代にかけて多くの生態学者たちは、人類の活動によって種の絶滅や生態系の改変が進んでいることを認識していたので、このままでは生物学的多様性(Biological Diversity)が失われかねないという危機感を募らせていた。

しかし、彼らにそれを阻止するすべはない。

科学者の仕事というのはあくまでも、事実を明らかにすることであり、その事実に対してアクションを起こすのは政治の仕事であるからだ。

そうしたなか1986年に、「危機にある多様性」をテーマにした大規模なナショナル・フォーラムがアメリカで開かれた。

その会議で生態学者のウォルター・G・ローゼンが、それまで使われていた「Biological Diversity(生物学的多様性)」というコトバの代わりに「Biodiversity(生物多様性)」というコトバを提唱したのである。

もちろんローゼンも、立場的には単なる科学者の一人だったが、彼はなんとかして政治を動かそうと考えた。そのためにわかりやすいスローガンが必要だったのだ。