被爆者団体「広島ビジョンにがっかり」 岸田氏退陣に地元の声は

AI要約

広島出身の岸田文雄首相が自民党総裁選への不出馬を決め、その決定に対して被爆者団体や地元から厳しい声が上がっている。

被爆地である広島市や広島県の代表者たちは、首相が核兵器廃絶に取り組む姿勢や将来のリーダー育成に期待していたが、失望感を表明している。

広島サミットでの核軍縮声明や首相の核政策に対する批判、そして地元の若者有権者らが感じる疑問や不満についても述べられている。

被爆者団体「広島ビジョンにがっかり」 岸田氏退陣に地元の声は

 被爆地・広島の選出であり、「核兵器なき世界」の実現をライフワークとする岸田文雄首相。唐突な自民党総裁選への不出馬表明に対し、被爆者団体などからは厳しい声が上がった。

 広島県議会議長で自民党県連の中本隆志会長代理は「県連としては引き続き頑張ってもらいたかったので残念だ。首相、自民党総裁として責任を取らなければという強い意思表示ではないか」とおもんぱかった。広島市の松井一実市長は「ライフワークである核兵器廃絶に向けて積極的に取り組まれ、広島サミットの開催や被爆地訪問などを通じた未来のリーダーとなる若い世代の育成など『ヒロシマの心』を世界に発信するために尽力いただいた」とのコメントを出した。

 昨年5月に広島市であった主要7カ国首脳会議(G7サミット)。核軍縮を巡る首脳声明「広島ビジョン」が発表されたが、核抑止を容認する内容だった。県原爆被害者団体協議会(県被団協)の箕牧(みまき)智之(としゆき)理事長(82)は「核保有国を中心に議論が進められ、がっかりした」と振り返る。

 首相は6日の平和記念式典後に被爆者団体代表と面会した際、核兵器禁止条約の締約国会議へのオブザーバー参加について否定的な姿勢を崩さなかった。もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(79)は「核兵器廃絶を積極的に進める気がないと感じた。核兵器なき世界に向けて、やるべき仕事を果たさないまま辞めることになる」と批判した。

 核兵器廃絶などに取り組むNPO「ANT―Hiroshima」の渡部朋子理事長は「首相は核抑止を日本の政治に定着させてしまった。核廃絶・核軍縮は停滞ではなく後退した」と厳しい。「この次は堂々と核抑止を唱える首相が出てくるかもしれない。市民の側からノーを突きつけるためにも核の問題への関心を高めていきたい」と語った。

 「核政策を知りたい広島若者有権者の会(カクワカ広島)」共同代表の田中美穂さん(29)は、サミット開催を実現させた首相の功績をたたえる地元の声に「被爆地の広島が都合良く使われてしまった」と感じる。会を設立した2019年以降、核政策を問うため広島選出の与野党国会議員に面会を求めてきたが、岸田首相の事務所とはいまだ実現できていないという。「首相にとって核廃絶や核軍縮の優先順位はどれほど高かったのか。最後に『核兵器禁止条約の締約国会議にオブザーバー参加する』くらいは言ってほしかった」と語った。【安徳祐、根本佳奈、武市智菜実、宇城昇】