能登地震の被災地、見たからこそ 高校生、模索中の「学習ツアー」に

AI要約

長崎県と石川県の高校生が能登半島地震の被災地を訪れ学ぶ取り組みが始まっている。

観光学者の計画に基づいた学習ツアーでは、被災地の人々の体験や被害状況を知るために液状化現場や仮設住宅を訪れた。

参加した生徒たちは被災地での学びを通じて、災害や地域の理解者として復興を支援していく観光のあり方を考えている。

能登地震の被災地、見たからこそ 高校生、模索中の「学習ツアー」に

 能登半島地震の被災地を訪れて学ぶとはどういうことか、模索が始まっている。8月4日には長崎県から訪れた高校生たちが、被災した人たちに話を聞きながら現地を歩いた。

 石川県羽咋市柳田町にある仮設住宅の集会所。珠洲市で被災し、いまはこの仮設住宅で暮らす長松(ちょうまつ)千代子さん(59)が元日の地震のことを語り出す。

 「ばあちゃんがイスから転げ落ちて床をごろんごろんと転がって。風呂に入っていた旦那は、揺れが収まってから風呂から出てくることができて……」

 真剣な表情でうなずきながら、メモ帳にペンを走らせたのは、長崎県立長崎南高校と、地元の石川県立羽咋高校の新聞部員たち。観光学者の井出明・金沢大教授が計画した「学習ツアー」だ。

 長崎南高の新聞部顧問、安井秀隆教諭が地元紙で読んだ被災地の観光についての記事を手掛かりに、井出教授に「被災地に行って学ぶことはできるか」と相談し、模索しながらのツアーが実現した。

 この日、同高の新聞部員たちは、地震による火災で焼失した「輪島朝市」があった一帯を訪問。「目に見えて大きな被害があったところだけでなく、広範囲にわたる液状化や、被害が甚大な奥能登を支援するための前線基地になった地域も含めて、被災社会を総合的、多面的に知る」(井出教授)ために、被害があまり知られていない羽咋市の仮設住宅で話を聞き、液状化の現場で市の職員からメカニズムや今後の対策について説明を受けた。

 学習ツアーには、地元の羽咋高の新聞部員3人も合流。互いに感想を述べ合ったほか、長崎南高校生が「きつかったら答えなくてもいいです」と前置きした上で、元日の被災当初からこれまでの体験を、同年代の視点で尋ねた。

 長崎南高2年の川浪華歩さん(17)は「テレビで見ていたときは局所的な被害に感じたけれど、実際に見て、プロの方の説明を受けて、被害の大きさがわかった」。羽咋高2年の酒田心陽(みよ)さん(16)は「(上下水道の)配管がむき出しになっているのも、私たちにとっては日常になってしまっていた」と語る。長崎南高校生の訪問について「わざわざ来てもらえて、その行動力がすごい」と話した。

 井出教授は、戦争や災害、差別や公害といった人類の悲劇をめぐる「ダークツーリズム」の研究や、被災地での観光資源づくりに携わってきた。「『人の不幸を観光にしていいのか』と怒られることもあるが、今日のような形なら、意味があると思う」と手応えを話した。今回の試みもふまえて、震災や能登という地域について学んでもらい、復興を後押しする理解者を増やせるような観光のあり方を考えていくという。(上田真由美)