「俺がやってるのは『農業』じゃなくて『道楽』だよ」世界一の野菜畑が千葉にあった…!ミシュラン料理人が慕う80歳「伝説の農家」の挑戦

AI要約

都心から車で約1時間半かかる千葉市に隣接する八街市には、野菜づくりを「道楽」とする伝説の農家・浅野悦男さんがいる。

浅野さんは30年前にルッコラの栽培を始め、その野菜の味わいやミネラルの重要性に注目し、料理人たちから信頼を得ていった。

化学肥料を使わず、過保護をせずに育てた野菜は小さいが味が濃く、野菜本来の味を引き出している。

「俺がやってるのは『農業』じゃなくて『道楽』だよ」世界一の野菜畑が千葉にあった…!ミシュラン料理人が慕う80歳「伝説の農家」の挑戦

都心から車で約1時間半。千葉市に隣接する八街市に“伝説の農家”と呼ばれる男がいる。レストラン関係者の間では知らぬものはいないという「エコファーム・アサノ」オーナーの浅野悦男さん(80歳)だ。

「俺がやってるのは『農業』じゃなくて『道楽』。どんな料理になるのか考えながら、野菜づくりをするのが面白くてしょうがないんだ」

この日、収穫していたのはホウレンソウに似た葉菜でピンクや黄色の茎をもつ「スイスチャード」や、真っ赤な「ビーツ」などの西洋野菜。

「こっちのひょうたん型をした『バターナッツかぼちゃ』は通常大きく熟してから収穫するんだけど、未熟なうちなら、ほら、生でも美味いだろ? 早穫れのものを俺は『ポティロン』と呼んで出荷している。ネーミングも大事だからな」

浅野さんもかつては落花生や里芋を生産するごく普通の農家だった。だが生来、人と同じことをするのが大嫌いな性質。30年ほど前に、当時まだ珍しかったルッコラに目をつけた。

しばらくすると『料理の鉄人』などで知られる「リストランテ・ヒロ」の山田宏巳シェフが農園にやってきた。そこで「これつくってみて」と託されたのが「ルッコラ・セルバチコ」の種だ。

「ルッコラの野生種で、それまで俺がつくっていたルッコラよりも断然、本場の味がした」

当時、本国からの輸入野菜に頼っていたイタリアンのシェフたちがこれに飛びついた。料理人同士のつながりから「アクアパッツア」の日高良実氏など、有名レストランが次々と浅野さんの野菜を使い始め、シェフたちから絶大な信頼を勝ち得ていった。

何より評価されたのは浅野さんの野菜の味の良さだ。

「俺にいわせりゃ野菜もハーブも、もとはその辺に生えてる『野草』とおんなじ。肥料を使えば確かに大きくなるが、道端の草に肥料を入れる奴なんかいないだろ。だから余計な事はしないほうがいいんだ」

浅野さん自身、化学肥料を使い続けていたあるとき、突然野菜がうまく育たなくなった経験があった。肥料は、野菜の形は大きくしても、味には影響しない。そのときに大事なのは栄養分よりミネラル分なのだと直感した。とりわけヨーロッパ産の作物には、カルシウムなどのミネラルが不可欠なのがわかったという。

「肥料をやめたから、うちの土壌は科学的に分析すると栄養失調状態と言われてしまう。でもむしろそれが良かったと思う。小さくても味が濃くて、野菜本来の味がする野菜が穫れるようになったんだ。子育てと同じで過保護じゃダメなんだよ(笑)」

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後編記事『世界一の野菜畑は千葉にあり!「パリコレでトレンドを見よ」「アリを捕まえて食べ比べ」三つ星シェフが憧れる“80歳・伝説の農家”の野菜哲学』に続きます。