学習用端末の更新を着実に推進。ネット回線の強化は行政の責任で

AI要約

GIGAスクール構想で整備された端末の更新が始まる。2024年度の課題は整備された端末の更新に向けた取り組みを進めること。

学校のインターネット回線の貧弱さが指摘されており、帯域不足が解消されていない状況。児童・生徒が適切にクラウドサービスを利用できるネットワーク環境が必要。

教育委員会や文部科学省、自治体、通信事業者などが連携し、端末の更新やネットワーク環境の強化などICT環境整備に取り組む必要がある。

学習用端末の更新を着実に推進。ネット回線の強化は行政の責任で

 2024年度以降、GIGAスクール構想で整備された1人1台端末の更新が始まる。教育DXを着実に進め、より良い学びを広げるには何が必要なのか。2024年4月に文部科学省で担当課長として着任した寺島史朗氏に聞いた。

──GIGAスクール構想で導入した端末の更新が始まります。

 GIGAスクール構想には学校情報基盤のインフラ整備と利活用の両面があります。学校に整備された900万台を超える学習者用端末を着実に更新する道筋をつくることが、2024年度の大きな課題の一つです。

 2023年度の補正予算で基金を拠出して都道府県と市区町村が参加する会議体を立ち上げ、端末を広域で共同調達することによりコストを下げる仕組みをつくりました。端末更新に当たり、これまでの環境を踏襲するのではなく、ICTを活用してどのような学びを実現していくか、そのためには何が必要なのかという議論を深めてほしいと考えています。

──以前から学校のインターネット回線が貧弱であると指摘されてきましたが、帯域不足はいまだに解消していません。

 授業で児童・生徒全員がクラウドサービスにアクセスをしても問題なく使えるネットワーク環境が必要です。2024年4月に、学校のネットワークについて実態調査をした結果を公表しました。 多数の児童・生徒が高頻度で端末を使っても支障がないネットワーク帯域幅を、学校規模ごとに「当面の推奨帯域」として算出しました。それを全校の測定結果と照合した結果、およそ8割の学校が当面の推奨帯域を満たしていませんでした。これによって即、クラウド利用に支障を来すとは限りませんが、今は大丈夫でも早晩問題に直面することになるでしょう。

 全ての児童・生徒が自分の端末を使って学ぶために必要なインフラを整備するのは、行政の責務です。その基盤の上でどのような学びを実現するか考えていくのが教員の仕事です。

 コロナ禍で当初の計画を前倒しして短期間に整備したため、自治体や学校現場も手探りで進めた面が大きかったと思います。使い始めてから壁にぶつかり、ネットワークの重要性を再認識したところも多かったようです。端末とクラウドをしっかり活用していこうという意識がある自治体では、回線の強化など整備が進んでいます。

──ネット回線の強化を加速するため、国が補助するなどの施策は考えられませんか。

 自治体ではできないから国に整備してもらう、補助金を出してもらうというのは、ちょっと違うのではないしょうか。学校のICT環境整備には地方財政措置が使えます。もちろん、これは色付きのお金ではありませんが、十分に活用していないとみられるケースが少なくありません。

 教育委員会は、自治体の首長や財政部局に学校現場を見てもらったり情報を発信したりして、GIGAスクール構想で実現した新しい教育スタイルや校務DXの重要性を理解してもらうことが重要です。文部科学省も調査結果を公表して終わりではなく、国として何ができるか検討し、通信事業者の協力も得ながら環境改善に努めます。

初出:2024年7月9日発行「日経パソコン 教育とICT No.29」