社説:祇園祭の山鉾巡行 観光化に一石、継承へ議論を

AI要約

祇園祭の前祭を控え、祭りの在り方が問われる中、プレミアム観覧席の問題が話題に。

伝統と観光のバランスや資金確保など、祇園祭を取り巻くさまざまな課題が浮き彫りに。

地域の祭りを守りつつ、透明性や説明責任を重んじた運営が求められる。

 梅雨空を突くように鉾が立ち上がった。祇園祭は前祭(さきまつり)(17日)の山鉾巡行を控え、きょうから宵山期間に入る。

 千年を超えて受け継がれ、時代とともに変化してきた祭りの在り方が問い直されている。

 祭りを営む八坂神社の野村明義宮司が先月、「山鉾巡行は神事であり、お酒を飲んで楽しむショーではない」と発言し、一石を投じた。

 京都市観光協会が販売する1席15万円の「プレミアム観覧席」で、酒の提供を問題視し、自身が務める同協会の理事を辞任するとして再考を求めた。

 プレミアム席は、一般の有料観覧席とは別に昨年から始まった。訪日客が主なターゲットで、初回は1席40万円で酒を含めて「飲み放題、食べ放題」だった。野村氏は本来の疫病退散の祭りと照らして「違和感」があり、懸念を抱いていたという。

 指摘を受けて協会は酒の提供を取りやめ、野村氏も辞意を撤回した。対立は回避されたものの、度々、議論が繰り返された「信仰か観光か」を巡る問題提起と受け止めるべきだろう。

 背景には、伝統行事を続けていく資金の確保という、祇園祭にとどまらない課題がみえる。幅広い視点で議論を深める機会ではないか。

 有料観覧席は、戦後に前祭の巡行路を御池通に変更したのを機に設けられた。高度成長期に市が主導した「観光化」の一環で、前祭に後祭が吸収される合同巡行にもつながった。

 現在は前祭と後祭(24日)の巡行両日、市観光協会が開設している。収益から祇園祭山鉾連合会に毎年約2千万円を交付し、34ある山鉾の保存会を支援している。保存会は毎年の運営費に加え、懸装品の修理や部材の維持にも出費がかさむ。財政力には差があり、規模の小さい組織は特に貴重な財源である。

 近年は雑踏事故の防止が課題で、連合会はクラウドファンディングの募金で警備費を確保している。15万円の寄付で沿道のビルから「辻回し」を見物できる特典があり、完売という。

 プレミアム席のような方式は、青森ねぶた祭や徳島の阿波おどりなど各地で広がっている。目先の富裕層に頼って収益拡大を追うばかりでなく、広く文化への理解を深めてもらい、息の長い支援につなげる手だてこそ必要だろう。

 京都市は山鉾の行事や修理に年数千万円を助成し、観光協会の要職に幹部職員を派遣している。財政難の中、一定の公的関与をしていることは間違いない。

 市内外の協力と理解を得るには、観覧席をはじめ事業全般の収支を公開するなど、透明性向上と説明責任が問われよう。

 地域の祭りは、関連する産業の人材育成をはじめ多様な課題を抱えている。京の伝統文化を守りつつ、時代に合わせて見直し、引き継ぐ知恵を集めたい。