社説:いじめ調査 「心身の苦痛」を受け止めよ

AI要約

再調査委員会が北海道旭川市でいじめを受けていた中学生の凍死を自殺と認定し、いじめとの因果関係を明らかにした。

遺族の提供したSNSのデータから苦しみや死を決意した可能性が浮かび上がり、学校や市教委の対応の不手際が指摘された。

いじめ問題に対して真摯に向き合い、被害者側の声を尊重することが解決への第一歩であることが改めて認識された。

 なぜ命が失われたのか。遺族の声に向き合わなかった教育委員会の責任は重い。

 北海道旭川市で2021年、いじめを受けていた中学2年の女子生徒が凍死した問題で、市の再調査委員会は結果を公表し、凍死は自殺とし、いじめとの因果関係を認定した。

 再調査委は、家族から提供を受けた生徒のSNS(交流サイト)の発信履歴約4千件を分析し、心理状況を読み取った。いじめによる恐怖や死について亡くなる直前まで言及していたことから、いじめに苦しみ、死を決意したと判断した。

 学校や市教委はいじめと捉えず、リスクを発見、低減させられなかったと指摘した。

 説得力のある内容を評価したい。ただ、いじめ発覚から3年を超える。遺族にはあまりにも長く、苦しい時間だったろう。

 長期化した原因は、最初に市教委の第三者委が行った調査の不十分さにある。

 生徒は21年3月に市内の公園で凍死した。市教委がいじめ防止対策推進法に基づく重大事態と認定したのは4月で、週刊誌報道の後だ。

 第三者委は翌年9月の最終報告書で先輩7人からのいじめを認めた一方、医療情報が得られなかったこともあり、自殺との因果関係は「不明」とした。

 これに遺族側が反発し、市が再調査を決めた。第三者委の対応に遺族側が強い不信感と違和感を抱いたことから、再調査委は対面や書面で遺族側と信頼関係を構築し、新たにSNSの投稿を提供してもらえた。

 SNSによる発信は、いまの子どもたちには身近で内面を映しやすいといえる。委員長の尾木直樹氏が「今後の再調査のモデルとなるようなものを目指した」と自負したように新たな手法として広く参考にすべきだ。

 再調査委員の一人は、一連の市教委の対応について「早く事態を終結させるため、意図していじめ問題とはしなかった」と厳しく断じた。猛省し、問題点を検証すべきであろう。

 いじめ問題に対する学校や教委の不手際は各地で絶えない。

 京都市では、市立小の在籍時にいじめを受け長期欠席した男子生徒と女子生徒(いずれも14歳)を、市教委が重大事態に認定してなかったことが判明した。市教委は「いじめによる欠席ととらえきれていなかった」などとし、生徒らに謝罪したという。再発防止策を求めたい。

 大津市立中2年の男子生徒がいじめを苦に自殺した事件を機に成立した同法では、「被害者の心身の苦痛」を基準に判断すると明確化している。

 学校や市教委はその視点を欠いてはいなかったか。子どもの命と尊厳を最優先に、被害者側の声を真摯(しんし)に受け止め、寄り添うことが実態解明と解決への道につながることを、改めて認識すべきではないか。