【申し立て後に自殺か】兵庫・斎藤知事のパワハラ告発の元県民局長が命を絶った「深刻な理由」

AI要約

元西播磨県民局長のA氏が自死したことで、兵庫県政は混乱している。

斎藤知事のパワハラ疑惑を告発したA氏は証人として出頭を予定していた最中だった。

A氏の自殺を受けて百条委員会の行方や県政の混乱が続いており、事態はさらに複雑化している。

【申し立て後に自殺か】兵庫・斎藤知事のパワハラ告発の元県民局長が命を絶った「深刻な理由」

1人の元職員の自死により、兵庫県政はさらなる混乱に陥っている。

7月7日、斎藤元彦(46)・兵庫県知事のパワハラなど7つの疑惑を告発していた元西播磨県民局長のA氏(60)が、姫路市内で亡くなっていたことが明らかになった。兵庫県では、A氏の告発を発端に斎藤知事の疑惑に対して51年ぶりに百条委員会が設置され、6月より本格的な調査が始まっていた。A氏も19日に証人として出頭を予定していた最中の出来事だったのだ。県政関係者も突然の死に驚きを隠せず、県には抗議の電話が鳴り止まないという。

5月27日公開のFRIDAYデジタルの記事『内部告発で右往左往…県知事の「おねだり」「パワハラ」疑惑文書拡散で兵庫県政が“異例の大混乱”』では、知事のパワハラ疑惑や県の混乱ぶり、百条委員会設置へ向けた内情などを詳報している。いったい、なぜ勇気ある告発者は死を選ばざるを得なかったのか――。

「彼が自ら命を断ったとは未だに信じられません。あれだけ百条委員会へ向けて着々と準備をしていたのですから……」

A氏と長年にわたり友好があった知人男性はこう明かす。

この男性によれば、A氏は19日に予定されていた百条委員会の証人出頭に向け、着々と準備を進めていたという。

「最後に連絡をとったのが亡くなる1週間ほど前。その時は『百条委員会に向けて準備を進めている。頑張ります!』という意思表明の連絡でした。県関連の会合に参加した際も、『百条委員会で真実を明らかにする』とやる気満々だったといいます。それだけに自殺への驚きが大きいのです……。遺書には百条委員会の継続を求めるメッセージが残されていたとも聞いており、誰よりも県の未来を憂いていた彼らしいな、とも感じます」

A氏と交流が深かった県の元幹部も、こう続ける。

「彼とは頻繁に連絡をとっていましたが、やはり百条委員会に向けて綿密な準備をしているというものでした。人望が厚い男でしたので、県の職員は深い悲しみに包まれています」

A氏の自殺を受けて、県職員の労働組合は、斎藤知事に対して辞職を求める申し入れを行った。これに対して、知事は「よりよい県政を立て直すのが責務」などと語り辞職を否定している。

県の関係者は「A氏は百条委員会に対してプライバシーの侵害を強く懸念していた」とも述べる。会議のなかで一部委員からは、告発文と関係のないパソコン内のデータファイルの開示も求められた。A氏のパソコンは、告発後の3月末に人事課に押収されたという。

しかし、証人出頭が迫ったタイミングで、どういうわけかある委員からは、「人事調査にかかる資料はすべて開示すべきだ」との発言があった。当然ながら、調査に関係のない資料まで開示する必要はない。

本誌は、実際にA氏が弁護士を通して百条委員会宛に申し立てした文章を入手した。

そこには、「A氏のプライバシー権が侵害されること」「基本的人権に最大限配慮すること」などが記されている。その上で、データファイルをすべて確認したところすべて本件告発文の真偽の究明には関係ないもので、人事課に対して当該データファイルの開示を求めないように釘が刺されている。前出の県政関係者が言う。

「A氏が人事課に抗議したところ、『開示に支障があるなら百条委員会に申し立てを行え』と突き放された。それで代理人弁護士を通して正式に申し立てを行ったわけです。A氏は憔悴しており、思い詰めているように映ったとも聞きました」

ところが、A氏の申し立てにより7月8日に開催された百条委員会の緊急理事会では、耳を疑うような発言が飛び交った。ある県議会関係者が嘆息する。

「百条委員会設置に反対したのは維新の会。本件に関係のない資料の非開示に反対したのも維新の会だけでした。緊急理事会では、ある維新の会の議員から『本文章には、知事の好き嫌いに関する記述、片山副知事の家族や学生時代の学友など、個人を特定した上でのプライベートについての記述が散見される。当事者として(A氏は)、プライベートなことを取り上げながら、自らの調査結果についてはプライベートな問題だから公開してくれるなというのは、あまりにも都合のよい身勝手な倫理。プライバシーに関係しているかどうかについても、A氏の代理人が判断するのは不適切だ』という旨の発言がありました。これにはさすがに暴論だ、という指摘もあり、他会派からの反対意見が出て調査に関係のない資料は一切提出を認めないことが賛成多数で可決されます。それでも、維新の会の議員は食い下がっていました」

この緊急理事会は、A氏が亡くなった翌日に開催されている。「多くの県議は、当日朝の段階でその訃報を知っていた」と前出の県議会関係者は言う。それゆえに憤りも隠そうとしない。

「当件がA氏を精神的に追い詰めていた可能性は否定できません。亡くなったことを知った上で、死人に鞭を打つような行為や発言をしていたのなら、議員というよりも、いち個人としてその人間性を疑ってしまいます」

ある県議は、19日の百条委員会は予定通り開催される運びだと述べた。今後は県職員へのアンケート結果なども争点となってくる。斎藤知事は自民党と、維新の会が相乗りして誕生した知事でもある。A氏の死後、こんな声も聞こえてきていた、前出の県議が言う。

「自民党の中でも、A氏が亡くなったことで『百条委員会の継続は困難では』という一部議員もいたのです。ですが、真実を明らかにすべきだという方が大多数で会派として継続の方向性となった。維新の会の中でも、若手を中心に『知事の対応はさすがにマズイ』という意見も少なくなかった。ですが、会の意思決定は上層部の数人が行っており、完全にトップダウン型。その対応に違和感がある県議はいるものの、声をあげられない状態なのです」

A氏は県を退職する前に、こんなコラムを残している。その一部を抜粋する。

〈我々は公務員です。仕事は県民の皆さんのためにするものです。自分のため、自分の栄達のために、仕事はしてはいけない。仕事を利用してはいけない。そして、自分の損得勘定で行動してはいけない、人の選別をしてはいけない。昇任、出世は結果であって、それを目的にしてはいけない。(中略)人を大切にすること、義を通すこと、誠実であることを、ひとりの人間としてずっと心に持ち続けて欲しいです。そして、筋を通そうとして挫けることがあっても、理不尽な現実の壁に跳ね返されても、諦めないで下さいね。『いつかきっと』と心に念じながら〉

1人の告発文から始まった騒動は、大きなうねりをみせ、もはや知事の進退という枠組みを超え、政局争いや県政の健全性という問題にまで波及している。それは、A氏の願った義や誠実さという概念からはかけ離れた世界であるような気がしてならない。