「トヨタとGMの経営統合」その立役者は実は「記者」!?「週刊文春」元編集長も驚愕した“スクープのつくり方”

AI要約

メディアの使命は権力の監視だが、ただ厳しい言葉を重ねるだけでは真の批判にはならない。政治家たちから学び、本質に向き合った元文春編集長の体験談。

著者は、スクープの99%はリークによるものだと教えられ、企業の内部情報が洩れる理由や特殊なスクープの方法について学ぶ。

自らの立場や能力を考えながら、政治家との関わりを模索する編集者の内省と、新たな可能性を模索する姿勢が明らかになる。

「トヨタとGMの経営統合」その立役者は実は「記者」!?「週刊文春」元編集長も驚愕した“スクープのつくり方”

 権力の監視はメディアの使命なので「御用記者」に成り下がってはいけない。しかし、政治家にただ厳しい言葉を重ねても、それは真の「批判の剣」ではない。そんなジレンマを抱えながら、安倍晋三、菅義偉、梶山静六、細川護熙をはじめとする大物政治家たちから直接「政治」を学び、彼らの本質と向き合った「文春」の元編集長がいた。

 数々のスクープをものにした著者がキャリアを赤裸々に語りつくした『文藝春秋と政権構想』(鈴木洋嗣著)より抜粋して、政権幹部と語り合った「密室」の内側をお届けしよう。

 「文藝春秋と政権構想」連載第1回

 編集者は黒子である。そう考えてきた。

 本来ならば、「政権構想の内幕」など活字にするようなことではないかもしれないが、いまの雑誌の有り様、コタツ記事、SNSの大隆盛をみて、気が変わった。

 「スクープの99パーセントはリークなんだよ」と教えてくれたのは、ノンフィクション作家の佐藤正明だ。新聞記者最高の栄誉である新聞協会賞、書籍・雑誌世界でのノンフィクション作品ナンバーワンを選ぶ大宅壮一ノンフィクション賞、この二つを受賞した唯一の作家である。

 「だいたい、企業の中で派閥同士の内紛があったりトラブルがあったりするからこそ、絶対に外部に出ないはずの機密情報が洩れてくる」

 「ただ例外もある。『つくるスクープ』というと誤解を招くかもしれないが、まったく違う特ダネのあり方だ。たとえば、A社とB社が経営統合や合併するかもしれないという場面。A社が業務提携や統合相手を探していることを察知して、そのお相手としてB社を紹介する。A社とB社のあいだで合併話が進めば、タイミングを計って発表する。これは他社には絶対に抜かれない。こういうスクープのやり方だよ」

 いとも簡単に佐藤は言うが、そもそもA社の首脳に信頼がなければ経営方針のホンネはわからないし、そのニーズを把握してもB社との仲立ちをするには双方の会社の内情に通じていなければできることではない。

 さらに巨大企業の提携や合併には様々な思惑が交錯し数々の障害が起こってくるが、それを一つ一つ片づけていって企業同士の仲人になるわけだ。実際、佐藤はトヨタとGMの経営統合を仲立ちしてスクープしていた。

 この話を聞いてなるほどとは思いながらも、完全に「記者の仕事」のノリを超えていると思った。実際、やっていいことなのか。そもそも、そんなことが果たして自分にできるのだろうか。この話を聞いたのは30歳の頃であった。

 雑誌記者・編集者であるわたしは企業の経営者に食い込むことはできないかもしれないが、政治家相手だったら、ひょっとして何かできるのではないか、そんなことをぼんやり考えていた。

 『「竹下登が顔面蒼白...」週刊文春元編集長が目撃した、日本政界で行われる生々しい「権力争い」の実態』へ続く