南海トラフの観測網「空白」解消へ、高知―宮崎沖で試験運用7月から開始…より早い地震速報を可能に

AI要約

南海トラフ地震に備えた海底観測網の試験運用が開始され、緊急地震速報の早い発表や津波の予測が正確になることが期待されている。

運用が始まる海底観測網は、南海トラフ地震の想定震源域をカバーし、沖合部分の観測が可能になる。

海底ケーブルには地震計や水圧計が備えられ、地震は最大20秒、津波は20分早く検知できるようになり、総事業費175億円が投じられている。

 南海トラフ地震に備えた海底観測網のうち、「空白域」になっていた高知~宮崎県沖の観測網「 N(エヌ) ― net(ネット) 」の試験運用が7月1日から始まる。運用する国立研究開発法人・防災科学技術研究所や気象庁によると、緊急地震速報が早く出せるようになるほか、甚大な被害が想定される津波についても、予想される高さや到達時間をより正確に住民に伝えることが可能になる。(藤沢一紀、高知支局 小野温久)

 「少しでも早く緊急地震速報が発表されることはありがたい」。高知市の名所・桂浜に近い市立浦戸小(児童数42人)の 難波江なばえ 明美校長の期待は大きい。

 同小は海岸から約100メートルの距離にあり、南海トラフ地震による津波は10~20分で到達し、最大5~10メートルの浸水被害を想定している。高さ約25メートルの裏山に避難する訓練を繰り返しているが、移動だけで最短6分かかり、「数秒でも早く避難を始めたい」と明かす。

 2011年の東日本大震災の発生当時、それまでに海域に整備された地震計は、陸域約1500か所に対して約50か所にとどまり、東北地方の太平洋側に到達した津波の高さなどを詳細に予測できなかった。

 そのため国は海底ケーブルを使った観測網を強化。北海道~千葉県沖の観測網「S―net」の運用を16年以降、順次開始し、同年8月に三陸沖で起きた地震では、陸域よりも22秒早く、地震の発生を検知できたという。

 南海トラフ地震に対しては、静岡県沖の気象庁のシステムも活用し、三重~高知県東部沖の観測網「DONET」の運用が11年から始まった。さらに西側のN―netの完成で、同地震の想定震源域すべてで観測網が網羅される。

 来月から運用が始まるのは、2本ある全長約1640キロ・メートルの観測網のうち沖合部分の約900キロ。

 海底ケーブルには、地震計や津波を観測する水圧計を備えた装置が18基取り付けられ、陸域や沿岸域などで行っている従来の観測に比べて、地震は最大20秒、津波は同20分早く検知できるようになる。沿岸に近い海底に整備される残り1本は来春完了予定で、総事業費は175億円。防災科研の青井真・地震津波火山ネットワークセンター長は「命を守る行動につなげてほしい」としている。

 気象庁によると、津波を沖合で観測することで、津波が到達する前に、より正確な情報に更新することが可能になるという。緊急地震速報をどれだけ迅速に発表できるかは今後検証する。

 最大34・4メートルの津波が想定される高知県黒潮町の村越淳・情報防災課長は「正確な情報が伝われば、住民らがより落ち着いて避難できる」と歓迎。同県室戸市の担当者も「空白域の解消を機に、住宅の耐震化や住民の避難意識が高まることも期待したい」と話した。