沖縄戦の苛烈さ伝える「一人芝居」、家族全員失った祖母の体験もとに…大阪の俳優の思いとは

AI要約

大阪市の俳優谷ノ上朋美さんが沖縄戦末期の苛烈さを伝える一人芝居を演じている。上演回数は2年間で40回以上に及び、家族全員を失った祖母の体験を元にした脚本を使用。

物語では、沖縄戦の悲劇を追体験し、当時の人々の痛みを伝えることに重点が置かれている。音楽や効果音は一切なく、谷ノ上さんの息づかいが演出に活かされている。

制作のきっかけは谷ノ上さんの祖母が沖縄戦で体験した悲劇。祖母が家族を失いながらも命を繋いでくれたことに感謝し、生きる素晴らしさを伝える意図が込められている。

 大阪市の俳優 谷ノ上(たにのうえ)朋美さん(51)が、太平洋戦争末期に起きた沖縄戦の苛烈さを伝える一人芝居を演じている。沖縄戦で家族全員を失った祖母の体験をもとにした脚本で、上演回数は2年間で40回を超えた。谷ノ上さんは「一人一人が命と向き合えば、争いはなくなる」と信じる。23日は沖縄戦終結から79年となる「沖縄慰霊の日」。

 「海の向こうから、いっぱい飛んでくる。あれが爆弾落としてきよるさ。手、つないでいたのに、誰もいなくなった」

 5月25日、大阪府富田林市の公民館。もんぺ姿で舞台に立つ谷ノ上さんが観客約60人を前に切々と語った。一人芝居「ゆんたくしましょうね」の一場面。「ゆんたく」は沖縄弁で「おしゃべり」を意味する言葉だ。

 物語は、谷ノ上さん自身を投影した「わたし」が沖縄戦の足跡をたどる中で、「ひめゆり学徒隊」や、追い詰められて我が子を手にかける母親らの意識に入り込み、追体験する。音楽や効果音はなく、谷ノ上さんの荒い息づかいが響く。

 小学3年の娘と見た、市内の主婦(52)は、「芝居を通して当時の人びとの痛みに思いをはせることができた」と話した。

 谷ノ上さんは、大阪出身の父と、集団就職で、沖縄県浦添市から大阪へ移住した母の間に生まれた。短大卒業後、演劇の世界に入り、主に人権問題を題材に一人芝居を続けている。

 「ゆんたく――」制作のきっかけは2018年4月、祖母の又吉純子さん(94)(沖縄県浦添市)らと訪れた平和祈念公園(同県糸満市)で沖縄戦の死者の名前が刻まれた「平和の 礎(いしじ)」を見たことだ。そこには、祖母の両親と7人のきょうだい全員の名があった。

 「おばあちゃんが命をつないでくれたから今の自分がいる。そのことに感謝し、生きる素晴らしさを伝えたい」との思いが募った。

 谷ノ上さんが純子さんに沖縄戦のことを聞くと、絞り出すように話した。15歳だったあの日、家族で墓場に身を潜めていたが、しばらくその場を離れ、再び戻ると、爆撃に遭ったのか人の姿はなくなっていたこと。住民の遺体が横たわる中を逃げ回ったこと――。