企業収益は過去最高、内部留保も過去最多なのに、労働分配率は最低水準…企業の儲けはどこへ行った?

AI要約

企業の業績が好調で過去最高を更新しているにも関わらず、賃金の増加は鈍化し続けている。

企業の利益の多くが税金や配当、内部留保に回されており、従業員への待遇改善は後回しにされている。

政府、投資家、会社自身が企業の好業績から恩恵を受けており、特に富裕層や株主に配当が増加している。

企業収益は過去最高、内部留保も過去最多なのに、労働分配率は最低水準…企業の儲けはどこへ行った?

止まらない物価上昇に比べて増えない賃金。企業収益は大きく増えて過去最高を更新しているにもかかわらず、その儲けはいったいどこへ行っているのか。

9月2日に財務省が発表した法人企業統計では、企業決算の好調ぶりが改めて鮮明になった。全産業(金融業・保険業を除く)の売上高は前の年度に比べて3.5%多い1633兆3314億円、経常利益は12.1%増の106兆7694億円、当期利益は8.1%増の80兆4506億円と、いずれも過去最高を更新した。製造業、非製造業ともに利益を大きく伸ばしている。

では、その「儲け」はどこへ行ったのか。企業が生み出した「付加価値」の総額は7%増の340兆2545億円で、このうち人件費が221兆6634億円を占める。総額が7%増えているにもかかわらず、人件費の増加は3.4%増にとどまった。2021年度の5.7%増、2022年度の3.8%増を伸び率で下回っている。岸田文雄首相が繰り返し「物価上昇を上回る賃上げ」を求め、大企業を中心に高い賃上げ率が達成されたとしてきたものの、中小企業まで含めた企業全体でみると、伸び率は鈍化傾向にある。

付加価値をどれだけ人件費に回したかを示す「労働分配率」は、65.1%と、2020年度の71.5%をピークに、2021年度68.9%、2022年度67.5%、そして65.1%と大幅に低下を続けている。直近で最も低かったのは2017年度の66.2%で、それを大幅に下回る過去最低水準となった。儲かっても中々、給与アップにはつながっていないことを示している。

では誰が好業績の恩恵を受けているのか。

ひとつは「政府」だ。企業業績の好調で法人税収が増えた他、物価上昇も消費税収の増加となって政府の懐を潤わせる。付加価値の中で、「租税公課」は前の年度の6.1%増を上回る10.5%増を記録した。

次に「投資家」である。配当の伸び率は9.7%増と、前の年度の9.1%増を上回った。株価の上昇や新NISAの広がりもあって、国民の投資への関心が高まり、企業も積極的に増配するなど株主還元に動いた。配当は直接株式を保有している人だけでなく、年金加入者などに広く国民に恩恵を与えるが、株式をたくさん保有する富裕層に恩恵が大きくなっているのは間違いない。

ちなみに、純利益のうちのどれだけの割合を配当に回したかを示す「配当性向」は44.4%。2022年度の43.8%から上昇した。

次いで恩恵を受けたのが「会社自身」だ。法人の利益剰余金、いわゆる「内部留保」は8.3%増えた。内部留保の累計額は600兆円9857億円と、年度ベースで初めて600兆円の大台に乗せた。租税公課も配当も、内部留保も、人件費を大きく上回る伸び率となった。従業員への待遇増よりも、内部留保や配当、税金支払いが優先されていると見ることもできる。

内部留保は11年前の2012年度に300兆円を突破、以後、毎年増え続けている。2016年度に400兆円、2021年度に500兆円を超え、それからわずか2年で100兆円も増えた。企業経営者の多くは「いざと言う時に備えて手元を厚くしておきたい」と内部留保を増やす理由を語る。だが、新型コロナウイルスの蔓延で経済活動が凍りついた「非常時」とも言えた2019年度も2020年度も内部留保は減らなかった。2019年度の当期利益は27.5%減った一方、内部留保は2.6%増加、2020年度は当期利益14.1%減にもかかわらず、内部留保は2.0%増えた。