TSMCやOpenAIも…活発化する対日投資、経済復活で果たす「ある役割」とは

AI要約

日本経済が失われた30年から抜け出し、外国企業の対日投資が活況を呈している。

日本のポテンシャルを再評価する動きが加速し、半導体の開発やデータセンター建設に注目が集まっている。

AI時代の到来により、リアルな領域のデジタル化が進み、日本市場が新たな可能性を秘めている。

TSMCやOpenAIも…活発化する対日投資、経済復活で果たす「ある役割」とは

 AI時代に欠かせない半導体の開発・製造やデータ・センターの建設で外国企業の対日投資が相次いでいる。地政学リスクが高まり、リアルな領域のデジタル化が進む中、日本のポテンシャルを再評価する動きと言える。こうした集中的な投資が「大きなひと押し」となれば、「失われた30年」に陥った日本を「低成長のワナ」から救い出す「ビッグ・プッシュ」になる可能性がある。今回は、開発経済学の概念を援用して、日本経済の現況を考えてみよう。

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 世界の景色が大きく変貌している。国際情勢と技術環境の変化を「世代」の時間軸で俯瞰(ふかん)すると、デジタル化と平和の配当が共振し、企業の最適資源配分がグローバル化する中で、日本経済は「失われた30年」の低位均衡に陥った。

 だが、現在この構図は大きく書き換えられている。平和の配当が消滅し、価値観を巡る対立が深まる状況にサプライチェーンの可視化を促す技術革新が重なり、企業の最適資源配分は、効率性だけでなくフェアネスや倫理にも重きが置かれる時代を迎えた。

 企業は、消費者、取引先、投資家からそのエコシステムを緻密にモニターされるようになったのだ。しかも、これまで情報の受信者だった消費者は、SNSなどを通じて発信者に転化しており、今後の企業経営では、レピュテーション・リスクを視野に入れた事業展開が欠かせない。

 加えて、デジタル化の波はIoT、ロボット、EV、バイオ、産業装置などリアルな領域にも及んでいる。そのため、グーグルやマイクロソフトなどのビッグテックから新興スタートアップまで多くの企業が素材の開発や製造に強い産業集積地へ惹きつけられている。ルート128の復活は1つの象徴だ。

 リアルな領域は、日本が得意な分野でもある。最近は世界の景色が変わる中で、日本のポテンシャルを見込んだ外国企業の対日投資が相次いでいる。台湾を代表する世界的な半導体企業TSMCの熊本工場新設はその代表例だろう。

 半導体は、AI時代を迎えて爆発的な需要拡大が見込まれており、平和の配当が消滅した国際情勢にあっては、国防用と民生用のデュアル・ユースでサプライチェーン再編の主役となる戦略物資でもある。

 日本はグローバルなサプライチェーンの重要拠点として、TSMCの熊本進出に加えて、半導体の国際的研究機関imecやChatGPTを開発したOpenAIのアジア初となる拠点開設など、外国企業による対日投資で関心を高めている。

 AIの学習に欠かせないデータセンターへの投資計画も相次ぎ、グーグルやマイクロソフトなど主要企業の投資総額は4兆円規模と報じられている(日本経済新聞[2024a])。

 背景には、(1)これからのAI開発で糧となる産業データが取得しやすい製造業の集積、(2)少子・高齢化や医療・介護などAIによる課題解決への潜在的ニーズの高さ、(3)経済安全保障の観点から国内拠点でのデータ管理を選好するユーザー層の厚み、など日本市場の特性が影響しているようだ。

 このほかにも、フェイスブック(現メタ)やAirbnbへの投資実績がある著名なベンチャー・キャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツがアジアで初となる拠点を日本に開設する動きも伝えられており(日本経済新聞[2024b])、投資と資金調達の両面で日本市場が注目されていることは間違いなさそうだ。