ホンダのミッドシップスポーツ「NSX」は爆速なのに快適走行!“誰でも乗れるスーパーカー”を目指す【歴史に残るクルマと技術058】

AI要約

NSXは、ホンダのスポーツスピリットの頂点に君臨する究極のスーパースポーツであり、高い動力性能と快適さを両立させる“ドライバーに優しいスーパースポーツ”である。

初代NSXは、オールアルミモノコックボディによる軽量化と高回転高出力の3.0L V6エンジンをミッドシップに搭載し、高速高出力で安定した走りを実現した。

2代目NSXは、3つのモーターを備えたハイブリッドシステムを採用し、581psの最高出力を実現した先進的なスーパースポーツである。

ホンダのミッドシップスポーツ「NSX」は爆速なのに快適走行!“誰でも乗れるスーパーカー”を目指す【歴史に残るクルマと技術058】

ホンダのスポーツスピリットの頂点に君臨するNSXは、1990年に誕生した。その美しいフォルムとオールアルミ・モノコックボディによる軽量化、ハイパワーの3.0L V6エンジンをミッドシップにするなど、ホンダの先進技術のすべてを集結させた究極のスーパースポーツである。ただし、従来のスーパースポーツとは一線を画し、高い動力性能と快適さを両立させた“ドライバーに優しいスーパースポーツ”なのだ。

TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)/PHOTO:三栄・NSXのすべて、新型NSXのすべて

●コンセプトは“快適F1”

1980年代、ウィリアムズ・ホンダがコンストラクターズチャンピオンを獲得し、マクラーレン・ホンダが連勝に連勝を重ねて圧倒的な強さを誇るなど、ホンダエンジンのF1黄金期だった。そのような中で、ホンダはF1躍進に相応しいホンダの頂点に君臨する高性能モデルの開発を進めた。基本コンセプトは、“快適F1”。快適な走りができるスーパースポーツだった。

当時多くのファンが憧れたスーパーカーと呼ばれたクルマは、一部の人しか乗れない特別なクルマだった。とんでもない高額であること以外に、ギヤチェンジやハンドリング操作が難しく、エンジン音がうるさい、エアコンがしっかり効かないことが多かった。それが魅力ではあったが、とても扱いにくく快適とは言えなかった。

一方で、下手に快適性を求めると、本来のスーパースポーツの魅力が薄れて中途半端になってしまう。NSXは、高い動力性能と優れた快適性の両立がテーマだったのだ。

世界初のオールアルミ・モノコックボディに高回転高出力エンジン搭載

NSXの特徴のひとつは、オールアルミボディで軽量化を追求したこと。当時は、部分的にアルミが使われることはあっても、骨格やボディのすべてにアルミを適用したのは、NSXが初めてだった。

強度と剛性を維持しながら、加工法や溶接技術の難しいアルミを多用すること自体、画期的だった。部位によって5種類のアルミ合金を使い分け、一般的な鋼板ボディに比べて140kg、クルマ全体で200kgの軽量化に成功し、車両重量1350~1390kgいう驚異的な軽量化と高い剛性を両立させたのだ。

エンジンは、ドライバーの背後に3.0L V6 VTECエンジンをミッドシップ搭載。高回転高速出力化のために、エンジンをショートストローク化し、超軽量チタンコンロッドやモリブデン鋼のカムシャフトなど、F1エンジン並みの材料を惜しみなく使用し、NA(自然吸気)ながら最高出力280ps/最大トルク30.0kgmを発揮した。

軽量化ボディに高速高出力エンジンをミッドシップにしたNSXは、0→100km/h加速が5速MTで5.0秒(4速ATは6.8秒)、最高速度は270km/hと、他のスーパーカーにも負けない走りと安定した操縦安定性を誇った。

快適性や実用性も重視した誰でも操れるスーパースポーツ

優れた走りを具現化したNSXだが、扱いにくいスパルタンなスポーツカーでなく、誰でも快適に安全に操れるスーパースポーツを目指した。

オートエアコンや電動パワーシート、パワーウインドウ、BOSEサウンドシステムが装備され、5速MTに加えてスーパースポーツでは珍しい4速ATも用意。さらに誰が乗っても快適に運転できるように、ドライバーを自然な体勢で座らせることを前提に、人間工学に基づいてペダルやハンドル、メーターなどの位置が決められた。

このような快適装備については、硬派なスポーツカーファンからは、過剰な装備だという批判的な意見もあったが、NSXのコンセプトはそもそも、誰でも安全に操れて快適に乗れるスーパースポーツだ。

車両価格は、800万~860万円に設定。当時の大卒初任給は17万円程度(現在は約23万円)だったので、単純計では現在の価値で1082万~1163万円に相当する。これでも、ポルシェやフェラーリに比べれば随分お得だった。

進化を続けたNSX 、2代目はハイブリッドモデルに

デビュー以降も、排気量アップや空力改善など改良を重ね、軽量化によって性能向上を達成した「NSXタイプR」や、脱着式オープントップの「NSXタイプT」、さらにスポーツ志向を高めた「NSXタイプS」といったモデルが追加され、NSXの魅力を高めた。結局初代NSXは、世界中で約1万8000台が販売され、2005年に一旦生産を終えた。

その後12年の時を経て、2017年に2代目NSXが復活。騎士の鎧を彷彿させるようなフロントマスクに、キャビンの背後にパワーユニットを配した直線基調のダイナミックなスタイリングに変貌した。

最大の特徴は、前輪2基、後輪に1基のモーターの計3つのモーターを使ったハイブリッドになったこと。V6エンジンのミッドシップレイアウトは初代と同じだが、排気量を3.0Lから3.5Lに増大してツインターボを装着した高性能エンジンに、高効率モーターおよび9速DCTを組み合わせ、フロントには左右独立モーターを組み合わせた「SPORT HYBRID SH-AWD」が採用された。

その出力は、エンジンが最高出力507ps/最大トルク550Nm、ドライブ(後輪)モーターが48ps、前輪のモーターがそれぞれ37psで、システム全体の最高出力はなんと581psに達し、モンスター化したのだ。

NSXが誕生した1990年は、どんな年

1990年は、NSX以外にもトヨタの「エスティマ」と「セラ」などが誕生した。

エスティマは、従来の商用車ベースの角ばったミニバンでなく、丸みを帯びた“天才タマゴ”のキャッチコピーで人気を獲得した新世代ミニバン。セラは、日本車初の跳ね上げ式“バタフライドア”を採用したスペシャリティカーである。

また、この年軽自動車の規格が変更され、安全性向上と排ガス規制への対応のために排気量が550ccから660ccへ拡大。車体の全長も100mm延長され3300mmとなった。

自動車以外では、女性に食事をおごってくれる“メッシーくん”、クルマで送り迎えをしてくれる“アッシーくん”が出現し、オジサンのギャグを揶揄する“おやじギャグ”という言葉も流行った。そして、さくらももこの人気アニメ「ちびまる子ちゃん」のTV放映が始まった。

また、ガソリン131円/L、ビール大瓶320円、コーヒー一杯350円、ラーメン450円、カレー600円、アンパン100円の時代だった。

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ポルシェやフェラーリとは違う、誰でも乗りこなせる操縦安定性や快適性が特徴のミッドシップスーパースポーツNSX。ホンダのF1技術を集結させた日本が世界に誇るスーパースポーツ、日本の歴史に残るクルマであることに、間違いない。