ワケありのフェラーリ「F40」でオークションが白熱!? 心臓部はなぜか「自然吸気V12エンジン」 唯一無二のマシンはいかにして誕生した?

AI要約

イギリスのシルバーストンサーキットで開催された自動車の祭典「シルバーストン・フェスティバル」で注目された車両がある。

この車両は、フェラーリ「F40LM」をベースにしてシンプソン・モータースポーツが手がけた独自仕様となっている。

「シンプソン・フェラーリ GTR」はレース用途から公道走行まで楽しめるユニークな1台であり、その歴史も含めて非常に特異な存在である。

ワケありのフェラーリ「F40」でオークションが白熱!? 心臓部はなぜか「自然吸気V12エンジン」 唯一無二のマシンはいかにして誕生した?

 イギリスのシルバーストンサーキットで2024年8月23日~25日にかけて開催された自動車の祭典「シルバーストン・フェスティバル」。今年もアイコニック・オークショニアズが主催するオークション「ザ・アイコニック・セール」が開催され、例年以上に注目を集めました。

 さまざまなレーシングカーが出品されましたが、その中でオークション前から大注目を集めたマシンがありました。一見するとただのフェラーリ「F40LM」ですが、車両名には「シンプソン・フェラーリ V12 GTR」との記載があります。

 V12? レプリカ? ワンオフモデル?……とさまざまな疑問が頭の中に浮かびますが、車両詳細を読み込むと、概念的にはレストモッドと呼べる車両だと分かります。

 この車両は、フェラーリ社が衝突試験に用いたモデルを修復し、レース車両に仕立てたものでした。その作業をおこなったのが、イギリスのシンプソン・モータースポーツです。

 シンプソン・モータースポーツは、顧客であるステファノ・セバスティアーニ氏のためにフェラーリ「348」のチューニングを手がけていました。

 1993年と1994年には、「348LM」でル・マン24時間耐久レースに参戦。シンプソン・モータースポーツとセバスティアーニ氏は、フェラーリ社とも良好な関係性を築いていました。ミケロッティが「348コンペティツィオーネ」や「348GTC/LM」を手がけたのは、シンプソン・モータースポーツに触発されたから、とさえいわれています。

 セバスティアーニ氏はフェラーリ社との関係がよほど強かったのか、前述のとおり衝突試験に用いられた「F40」を譲り受けました。今でいうレストモッドは、彼にとって馴染みのシンプソン・モータースポーツの手に委ねられました。

 大幅に軽量化された「F40 GTE」のボディをまとい、FIA規格のフルロールケージ、幅11インチ、直径18インチのフロントホイール、幅12.5インチ、直径18インチのリアホイール、カスタムメイドのサスペンションなどを採用しています。

 なかでも注目はパワートレイン。フェラーリ「550マラネロ」に搭載されたF133型自然吸気V12エンジンを、ヒューランド製のトランスミッションと組み合わせて搭載していました。なお2005年には、ヒューランドNLT 6速シーケンシャルトランスミッションへと載せ替えられています。

●1台でイベントからレース、公道走行まで楽しめる

 当該車両でヴァレルンガ6時間耐久レースに参戦したF1の元チャンピオンであるマウロ・バルディは「なんて素晴らしく速いマシンだろう。オリジナルのターボ仕様よりずっといいよ!」とコメントしたことが記録に残っています。

 その後、イギリスやヨーロッパでさまざまなレースに参戦後、同車は長年、動態保存されてきました。それが2023年に保管場所から取り出され、ターウェストン飛行場でシェイクダウンがおこなわれました。その後、シンプソン・モータースポーツによって整備されています。また、見た目と同様に素晴らしいサウンドを奏でることが、最近、確認されているそうです。

 購入者は、世界中の注目度の高いさまざまなイベントに参加可能で、シンプソン・モータースポーツが(必要であれば)技術的な支援を提供すると確約されています。

 さらに当該車両には、オリジナル製作時の図面や仕様の詳細、関連する請求書の数々、そして「シンプソン・フェラーリGTR」として英国で登録されていることを確認するUK V5C(英国の車両登録証)が付属しています。

 なお、当該車両は、イギリスではフェラーリ「F40」ではなく、「シンプソン・フェラーリ GTR」として登録され、シンプソンのシャシーナンバー“SEoGL1576AD45659”が与えられています。VINコードのSEはSimpson Engineeringの頭文字を指し、GL15は会社の郵便番号の一部だそうです。

 レースでの輝かしい実績があるばかりか、公道走行までできる「シンプソン・フェラーリ GTR」。フェラーリ社による衝突試験車両というヒストリーを持つ非常にユニークな1台です。