さらば、青春とロマンの“原チャリ” マニアたちが語る熱き思い

AI要約

原付き一種の国内生産が困難になる現状について。

若者が古いカブに乗って日本一周旅を果たし、次は世界一周へ。カブへの愛情と経験を語る。

原付き一種の魅力と未来への悲しみ。カブに関する意義とたぴこさんの旅の魅力を説明する。

さらば、青春とロマンの“原チャリ” マニアたちが語る熱き思い

「原チャリ」と長く親しまれてきた総排気量50cc以下の「原付き一種(原動機付き自転車)」の国内生産が岐路に立たされている。環境規制の強化に伴い、2025年11月以降、原付き一種を規制に合わせて生産を続けることは、技術とコストの両面から見て難しくなるからだ。長らく生活や通勤・通学の足として愛用してきたロマンと青春の詰まった一台に乗ってきた利用者たちはこうした動きをどう受け止めているのか。(時事通信経済部 李由紀)

◆中古のカブに一目惚れ

 ホンダのビジネス向けスクーター「スーパーカブ50」に乗って世界一周の旅に挑戦中のたぴこさん(26)は、俳優らが原付きでベトナム縦断を目指すテレビ番組を見たことをきっかけに、自身も「バイクに乗りたい」と思うようになった。22年4月、知り合いを通じてカブを譲ってもらうことになり、写真も見ずに5万円で即決。カブは長崎県壱岐市のシェアハウスに3年間放置されていたものだが、そのまま日本一周の旅に出ようと荷物を背負って現地へと向かった。案の定、車体にはクモの巣が張っていたものの、一目見て「めっちゃかわいい」と「初めて乗り物に恋した」。早速、愛車に「ぴたちん号」と名付け、出発した。

 SNSや動画で報告しながらの日本一周ルートは壱岐市から日本海側を東進、北上して青森港からフェリーに乗って北海道に。その後道内を時計回りで走り、函館港から再び本州・青森県大間町へと渡り、東北を南下して関東から関西を巡り、広島県から四国入りした。九州までは再びフェリーを利用し、本州最南端の鹿児島県から那覇市まで船移動、最後は名護市でゴール、半年かけての日本一周達成だった。ぴたちん号は入手当時既に走行距離が10万キロを超えていたが、それでも一度も故障やパンクはなかった。

◆カブに一生乗り続ける

 たぴこさんはカブの魅力について「頑丈、荷物がたくさん積める、小回りが効くこと」を挙げる。法定速度時速30キロという制限付きの旅だったが、「むしろすごくロマンを感じました」と振り返る。「荷物が多いので坂道では10数キロしか出ません。でもその分、田園風景を眺めたり現地の生活に思いを馳せたりできました」とたぴこさん。「バイク旅は公共交通機関の終電にも左右されないし、ある時は好きな所で止まり、ある時はUターンもできて楽しめました」と言い、「若いうちにこうした経験ができて良かった」とにっこり。

 そして次はいよいよ「世界一周」。まず立ち寄ったインドでは現地の人々がバイクを指差し「ホンダ!ホンダ!」と声を掛けてくれ、「こんな小さなバイクで世界を回るのか?」とも驚かれた。「スピードの速いバイクで走っていたらこんなに気にしてもらえなかったはず」と原付きのウイークポイントを強みと受け止めている。「カブのおかげでいろいろな人と会えて、多くの景色を体感できた。一生乗り続けると思う」ときっぱり。原付き一種の生産終了には「仕方ない面もあるが、若い人に私のような経験が受け継がれないことは悲しい」としみじみ語る。「カブ乗りはカブへの愛情がひときわ強い。私の旅も、ぴたちん号を通して出会った人との縁によって成り立っています」と話すたぴこさんは現在、ヨーロッパを巡り路上ライブなどをして“軍資金”を貯め、本格的な旅に備えている。