ディープテックとレイターステージを強化する スタートアップ育成5ヵ年計画のこれから

AI要約

国内最大規模のスタートアップカンファレンス「IVS 2024 KYOTO」が開催され、スタートアップエコシステムの議論や課題がテーマとなった。

イベントでは、スタートアップ育成5ヵ年計画の後半戦についてのセッションが行われ、投資額の増加や新たな取り組みについて議論された。

京都市では、スタートアップ支援が進められており、スタートアップ文化が育まれる環境作りが重要視されている。

5ヵ年計画の進捗や今後の展望について、政策担当者や起業家が意見を交換し、新たな取り組みの方向性が示された。

特に、レイターステージの強化や働き方の見直しが今後の重点課題として取り上げられている。

スタートアップ育成において、地方自治体や国の支援策が連携し、新たな産業創出やイノベーションを促進する取り組みが展開されている。

また、スタートアップの多様化や成長を促すため、人材育成や政策改革が積極的に行われている。

ディープテックとレイターステージを強化する スタートアップ育成5ヵ年計画のこれから

国内最大級のスタートアップカンファレンス「IVS 2024 KYOTO」が2024年7月4日から6日の3日間、京都市伏見区の京都パルスプラザで開催された。「Cross the Boundaries(境界を越えて)」をテーマに、国内外から過去最多となる1万2000人以上が参加。スタートアップエコシステムで議論するべきテーマや向き合うべき課題を選定され、200のセッションが開催された。

 国内最大級のスタートアップカンファレンス「IVS 2024 KYOTO」が2024年7月4日から6日の3日間、京都市伏見区の京都パルスプラザで開催された。「Cross the Boundaries(境界を越えて)」をテーマに、国内外から過去最多となる1万2000人以上が参加。スタートアップエコシステムで議論するべきテーマや向き合うべき課題を選定され、200のセッションが開催された。

 

 本記事では7月5日にメインステージで開催された「スタートアップ育成5ヵ年計画 後半戦の行方と展望」をレポートする。京都市の松井孝治市長をはじめ、計画の骨子をまとめた自民党衆議院議員で文部科学副大臣の今枝宗一郎氏、実質的な運営を担当する経済産業省経済産業政策局の富原早夏氏が登壇し、株式会社PoliPoliのCEO伊藤和真氏がファシリテーターを務めた。

 

実質4年間で投資額を10兆円に増やすための取り組み

 スタートアップ育成5ヵ年計画(以下、5ヵ年計画)についておさらいすると、日本にスタートアップを生み育てるエコシステムを創出し、第二の創業ブームを実現することを目的に2022年11月28日に立ち上げられ、岸田内閣が掲げる経済政策「新しい資本主義」の目玉の一つとなっている。「人材・ネットワークの構築」、「資金供給の強化と出口戦略の多様化」、「オープンイノベーションの推進」を3本柱に、スタートアップへの投資額を5年で10倍の10兆円に増やし、10万社のスタートアップを創出してユニコーン企業を10倍にすることを目指す。

 

 28歳で初当選した今枝氏は、日本一若い国会議員として注目されるだけでなく、政府の5ヵ年計画に対して国会議員連盟の事務局長として必要事項を提言し、実現に深く関わっている。計画はスタートがやや遅れており、実質的に4年で投資額を10兆円にしなければならないため、最初の1年は税制優遇制度の立ち上げや見直しに力を入れ、お金が回る仕組みづくりをしたという。その一つが「日本版QSBS制度」で、スタートアップ投資に対する株式売却益が最大20億円まで非課税となる。もう一つは「日本版SBIR制度」の見直しで、研究開発に対する補助金の前払いなどで税金を減らすメリットもある。

 

 次のキーワードとして取り組んだのが、ディープテックとグローバルである。日本はユニコーン7社のうち2社がディープテック分野なのに対し、米国はユニコーン997社のうち55%がディープテック分野で占められている。そこで、ディープテック分野に特化した研究機能と国際標準のインキュベーション機能を兼ね備えた「グローバル・スタートアップ・キャンパス」という”出島”を目黒区と渋谷区に創設。さらに、シリコンバレーに5年で1000人の起業家を派遣する「J-StarX」を実施している。

 

 富原氏はスタートアップの現状について、2年前の1万6000社くらいから2万3000社にまで増え、加えて大学や発明者の起業家や、地域も都市部以外の地方からも結構出てきていると話す。また、欧州で日本はスタートアップの国だと知られていなかったが、最近は続々と海外の投資家が来日しているという。5月にパリで開催された世界最大級のイノベーション見本市「Viva Technology」でも、日本が特別招待国(Country of the year)に選出されて多くのスタートアップが参加し、存在をアピールした。

 

「これまでのベンチャーブームがトレンドになる転換点で、今が大事なタイミングだと思っている。新しいチームではスタートアップファーストで、規制改革や制度を一緒に作っていきたいと考えている」(富原氏)

 

いろいろなものがコンパクトに交じりあう「ぬか床」から生まれる起業文化

 国の動きに対し、自治体でどのようなスタートアップ支援が行なわれているのか。京都市の事例が松井市長から紹介された。

 

 京都市からは、AI画像解析技術の株式会社HACARUSや、いきものコレクションアプリを開発する株式会社バイオーム、スマート養殖技術のリージョナルフィッシュ株式会社などが起業しており、京都府や経済団体と一緒になってオール京都でスタートアップのエコシステム構築を推進している。

 

 また、これまでに京セラやオムロン、堀場製作所といったメジャー企業を生み出してきたのは、いろいろなものがコンパクトにまとまって交じり合う「ぬか床」のような京都ならではの距離の近さがあるとしている。また「ぬか床は混ぜないといけないので、海外や東京や大阪の人たちも入ってほしいし、行政が混ぜる一助になっていこうとしている」ともコメントする。

 

 さらに松井市長は「ディープテックを含めた新しい技術に文化やアートといった付加価値を付けることが大事。ここでしか作れないものを作るスタートアップを伸ばして、ユニコーンを10倍にすることが重要な観点になってくるはずで、そこをぜひみなさんと一緒に頑張っていきたい」と述べた。

 

 今枝氏も政策を実現するにはチームの力が非常に大切で、新しい産業や本当に革新的なスタートアップを生んでいくという意味では、今の東京一極集中を変えていかなければいけないと思っており、その点では京都に期待しているとコメントした。

 

 松井市長はさらに、新しい政策は官僚だけが書くのではなく、市政からあげて実装することも必要だと言い、「そのためにも人々の意識を高め、巻き込んでいかなければ成熟した民主主義にならない」と話す。「新しい資本主義を議論する時に、誰が新しいビジネスアイデアを作り、誰がそれを実装し、誰が投資家を巻き込んでいくのか、というのは今回のIVSのテーマそのものである。もちろん京都だけでは絶対うまくいかないので、海外からも素晴らしいビジネスアイデアや資本を取り入れ、そして海外のマーケットに出ていくためにも、いろんな局面でいろいろなことを混ぜ合わせてほしい、ということを提案したい」(松井市長)

 

 伊藤氏は「時代が複雑化したことでスタートアップも多様化し、本当にいろんなことをやらないといけなくなっている」とコメントする。自身が創業したPoliPoliもその一つで、身近にどのような課題があり、どういうことができるのかを伝えて、政策につなげることを選挙以外の方法でやるために立ち上げた。実際に月1件ぐらいのペースでPoliPoliを通じて行なわれた提言から、何十億円という予算が付いたり、法律が変わったりする動きがあるという。

 

後半戦はレイターステージの強化と働き方の見直し

 残り時間が少なくなったところで、今枝氏が今後の5カ年計画について説明した。

 

 課題はいくつかあるが、レイターステージが弱いことからシリーズC、D、E以降を太らせて、未上場株式とセカンダリーを整備したエコシステムを作るなどがあり、オープンイノベーションやM&Aがやりにくい日本の制度変えることで、今はIPOしかない出口を多様化させるとしている。セカンダリーも含めて5000億円の財政を投入し、投資の呼び水にするプランである。

 

 また、日本では技術がビジネスになりにくいことから、「CXOバンク」という人材バンクを立ち上げ、そこでCFOやCOOになる人たち大学の研究シーズをマッチングさせる。文科省がスタートアップのチームを作って率先するという。あわせて働き方についても、雇用の流動性を担保して賃上げにつながるジョブ型雇用として日本型PIP(Performance Improvement Plan)を実現し、裁量労働制によって働く人を守りながら、スタートアップでも働きやすい環境作りも検討している。

 

 今枝氏は、「スタートアップ政策に関連する官僚チームを増やすため、各省庁に担当司令塔を造ることも計画している」と言い、いかに仲間を増やすかが必要かということを訴えた。富原氏は「国の政策を決めていくような研究会や審議会に、スタートアップの方々がどんどん入ってほしい」と述べた。最後に伊藤氏が「スタートアップは社会を変えたり、政治行政の仕組みを作ることができるので、事業を伸ばして新しいルールメイキングするようなワンチームに盛り上げていきたい」とコメントし、セッションを締め括った。

 

文● 野々下裕子 撮影●野々下裕子 編集●ASCII STARTUP