円高になっても物価が下がらないのはなぜ…消費者に還元されない「強欲資本主義」の末路

AI要約

為替レートの円高転換により、企業が輸入価格低下を売上価格低下に還元せず、消費者物価の低下が実現しない状況が続いている。

過去の円安時には企業が原価の上昇を消費者に転嫁してきたが、今回の円高では売上価格の引き下げが見られず、物価の低下が期待されていたものとは異なる展開となっている。

消費者物価の低下が企業の価格転嫁戦略に左右されており、今後の円高過程においても同様の問題が再発する可能性がある。

円高になっても物価が下がらないのはなぜ…消費者に還元されない「強欲資本主義」の末路

為替レートの円高転換に伴い、本来であれば、消費者物価が低下するはずだ。しかし、企業が輸入価格低下を売上価格低下に還元しないと、この過程が実現しない。物価引下げを実現させることが必要だ。

円ドルレートは、今年7月始めには1ドル=160円を突破する円安になったが、10日から急速に円高が進んだ。

そして、8月5日には、1ドル147円程度となった。この間に、円は9%ほど増価したことになる。だから、現地価格が不変なら、輸入価格は下落するはずだ。

これまで、為替レートが円安になる局面では、それによって消費者物価が上昇してきた。これは、円安による輸入価格の上昇で売上原価が上昇すると、企業はそれを次の段階に転嫁したからだ。転嫁はつぎつぎに続き、最終的には消費者物価に転嫁された。そして、日本国民の生活が困窮してきた。

為替レートの円高転換によって、これまでの過程が逆転し、消費者物価が低下して、元の水準に戻ることが期待される。

このような転換が起きるかどうかは、国民生活に大変重要な意味を持っている。

しかし、為替レートが円高になったときに、必ず消費者物価が下がるかと言えば、現実にはそうならない場合が多い。

そうしたことが2022年の秋に起きた。

為替レートは、21年には1ドル=110円程度だったが、アメリカが政策金利を急速に引き上げたために、2022年2月から急速な円安が進み、2022年10月に150円に近づいた。

これに対処するため、日本政府は、10月21日に5兆6000億円の円買い介入に踏み切った。このため、為替レートは円高に転換した。そして2023年1月には、1ドル=130円程度にまで円高が進んだ。22年10月頃と比べると、約15%の円高だ(なお、介入の効果は長続きせず、23年1月からは、ふたたび円安が進行した)。

円安時に見られた関係が成り立つとすれば、22年10月からの円高によって、消費者物価が下がってしかるべきだった。

しかし、実際にはそうしたことは起こらず、消費者物価(生鮮食料品を除く総合)の対前年同月比は、23年の中頃まで3%台中ごろの値だった(22年12月、23年1月には、むしろ上昇率が4%台に高まった)。

つまり、円安が進んで原価が上昇したときには企業はそれを売上に転嫁するが、逆に円高が進んで原価が低下した場合には、それを売り上げ価格の低下に結びつけなかったと解釈できる。今後予想される円高過程で、こうしたことが再び繰り返されるとすれば、大きな問題だ。