新卒1人退職で1104万円損失 「メンタルヘルス対策」を見くびる企業の問題点

AI要約

厚生労働省の調査によると、メンタル不調が原因で1ヶ月以上の休職や退職をする人が増加しており、その影響は企業に大きな損失をもたらす可能性がある。

現在のメンタルヘルス対策はストレスチェックなどが主流だが、社員の健康を守るためにはより包括的な対策が必要とされている。

社員自身もストレスチェックの結果を分析し、必要な場合は産業医面談を受けることが重要であり、社会の変化に合わせた取り組みが求められている。

新卒1人退職で1104万円損失 「メンタルヘルス対策」を見くびる企業の問題点

厚生労働省の調査によると、メンタル不調が原因で1ヶ月以上の休職や退職をする人は、全事業所の10%以上に上るといいます。これは、表面化した数字だけなので、実際はもっと多くの社員が心身の不調を抱えている可能性が高いのです。企業はメンタルヘルス対策として、ストレスチェックや産業医面談などを実施していますが、根本的な解決には至っていないのが現状です。メンタルヘルス対策の実情について、書籍『社員がメンタル不調になる前に』から紹介します。

※本稿は、藤田康男著『社員がメンタル不調になる前に』(日本能率協会マネジメントセンター)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

前触れもなく、突然社員が辞めてしまう......皆さんの会社で、そんなことはありませんか?

どんな企業にお勤めの方でも、取引先やご家族のことまで含めると、かなり多くの方がそのような経験をしていると思います。この突然辞めてしまう社員ですが、中には建設的な理由の方もいらっしゃるとは思いますが、体調不良、特にメンタル不調で辞めてしまう方のほうが圧倒的に多いのではないでしょうか。

厚生労働省の「労働安全衛生調査(実態調査)」では、メンタル不調が原因で1ヶ月以上の休職、または退職をされる方が全事業所の10%以上にのぼります。これは「メンタル不調」を明確な退職理由として識別できる方の人数ですので、メンタル疾患予備軍も含めると相当数の方が、何らかのメンタル不調を感じているはずです。

私は15年以上事業責任者の立場で仕事をしています。当然のことながら、人員計画の大切さを理解し、人員計画の予実のズレが事業に大きなインパクトを与えることを、身をもって経験しています。事業責任者の方でなくても、職場で何らかの理由で欠員が出れば、その分、働き手が減るわけですから、様々な皺寄せが自分に来たなどの影響を感じたことがあるでしょう。

従事されている業務が労働集約型の場合、その影響は非常に大きいと思います。さらに、長年PL(損益計算書)を管理し、利益にコミットする仕事をしていますので、1名の欠員がPLに与える影響を考えるとゾッとしてしまいます。

さて、その損失を具体的な数字で表してみましょう。仮に退職した社員の年収を480万円とします。

・労働配分率を50%とすると、年間960万円の付加価値減(480÷50%)

*利益率を30%とすると、3,200万円の売上減(960÷30%)

・採用時の人材紹介手数料を30%とすると、144万円(480×30%)

単純計算で、1,104万円(960+144万円)の損失が計算できます。

この数字とは別に、入社時の面接コスト、入退社時の調整コスト、育成に関するコストなどを含めると、さらに大きなものになります。

また、これらのコストを補填するための売上を逆算するとかなりの額になります。これが、退職者が発生した時に想定される損失です。この試算を目にすると、計画通り採用することも大切ですが、退職させないことも非常に重要なことだとよく分かります。

更に気になるのが、この状況を政府や人事労務担当者が理解しているにも関わらず、メンタルヘルス対策に関する状況が改善されていないことです。

職場におけるメンタル不調の対策は、「社員の健康を守る」という観点から日々検討され、手が打たれています。産業医との契約やストレスチェックの実施、ハラスメント窓口の設置などが法制度化されていることからも、さまざまな施策が考えられていることが分かります。

そして実際に、厚生労働省の令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、60%の企業で上記のようなメンタルヘルス対策が実施されています。突然辞めてしまう社員が増えているのは、みんな肌感覚で分かっています。そして企業としても決して手をこまねいている訳ではないのです。

しかし、日本ではメンタル疾患者が年々増え続け、ここ数年は著しい増加を示しています。我々は、メンタル不調との付き合い方を真剣に変えていくべき時期にさしかかっています。

また、会社で実施されるメンタルヘルス対策で一般的なのはストレスチェックです。ほとんどの企業でストレスチェックが行われていますが、みなさんは、ご自身のストレスチェックの結果を分析できていますか?

前回と比べてどのように変化したのか、その原因は何か、自分の結果が集団の中でどの辺りに属しているのか、把握していますか?

ストレスチェックによって、高ストレス者がスクリーニングされ、高ストレス者に対しては産業医面談が推奨されます。仮に、自分が高ストレス者でなかった場合、それでメンタルヘルス対策になっているでしょうか。逆に、高ストレス者だった場合、自ら希望して産業医面談を受けますか? その面談では何を話しますか? 「調子が悪いです」と言えますか?

現行のストレスチェックの仕組みは非常に有意義ですし、会社として最低限実施しなければいけない法的義務があります。ですが、ストレスチェックの実施だけで、社員の健康を担保できているわけではないのです。社会が変化する中で、その社会変化に対応した取り組みを行う必要があると私は考えています。