【物流2024年問題】価格転嫁率は27.8%! 運転手の賃上げで倒産リスクが高まる運送業界の袋小路

AI要約

運送業界において労働者の賃上げが難しい状況が続いており、「物流2024年問題」によって倒産が急増していることが明らかになっている。

トラック運送業界は労働集約型産業であり、人手不足とコスト上昇によって厳しい状況に直面している。2023年の倒産率は過去最多を記録し、新規参入事業者の伸びも鈍化している。

トラック運転手不足は深刻であり、業界全体の価格転嫁率が低いため、運送会社側がコスト上昇分の大部分を負担している。

【物流2024年問題】価格転嫁率は27.8%! 運転手の賃上げで倒産リスクが高まる運送業界の袋小路

 最低賃金が過去最大の50円アップで全国平均1054円になることが決まった。今春闘でも平均賃上げ率が5%を超える高水準となるなど、賃上げムードを強調するニュースが続いている。だが、すべての労働者が賃上げの恩恵にあずかれるわけではない。コストが上昇しても価格に転嫁できない業種・業界では、社員の給料にしわ寄せがいくことも多い。その典型が運送事業者だ。「物流2024年問題」が深刻化する中で、現場では何が起きているのか?

 人口減少問題の第一人者で、最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』が話題のジャーナリストの河合雅司氏(人口減少対策総合研究所理事長)が解説する(以下、同書より抜粋・再構成)。

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 荷物の輸送が滞る「物流2024年問題」という言葉がすっかり定着したが、物流クライシスは日本崩壊の号砲となるかもしれない。

「物流2024年問題」とは、2024年4月からトラック運転手の時間外労働に960時間規制が課せられたことで発生する問題だ。人手不足に拍車がかかり、輸送力が不足して運賃の上昇だけでなく、これまでのようには荷物が届かなくなることが懸念されている。

 これは、運送会社にとって死活問題である。時間外労働の規制強化によって1日に運べる荷物量は減る。運べる荷物が減ると運賃を上げざるを得ないが、荷主に対して立場が弱く十分な値上げができないという事情もある。

 運送業は典型的な労働集約型産業だが、運送コストで最も大きいのは人件費である。運転手を増やすには処遇の改善が不可欠だと分かっていても、十分な収益を得られなければ、それもままならない。無理な賃上げは倒産リスクを高めるだけである。

 実際に、2023年時点で運送会社の倒産が急増している。東京商工リサーチによれば2023年の道路貨物運送業の倒産は2014年以降最多となる328件(前年比32.2%増)にのぼったのだ。このうち、運転手などの人手不足関連の倒産が41件で前年比127.7%と大幅に増えた。

 2023年の倒産件数が急増した主な要因は、運転手不足による機会損失に、人件費や燃料費の高騰が重なったことであるが、「物流2024年問題」を契機に業界の本格的な縮小が始まったということに他ならない。しかも、トラック運送業界の新陳代謝は著しく、倒産するところがある一方で新規参入も多いのだが、近年は新規参入事業者数の伸びが鈍化し、横ばい状態となっている。物流崩壊は多くの人が想定するより早く到来するかもしれない。

 全日本トラック協会によればトラック運送事業者の9割が中小企業である。社会的要因でコストが膨らんだとしても、大口の荷主との価格転嫁交渉はしづらい。帝国データバンクが2024年2月に行った実態調査では、運輸・倉庫業は27.8%と価格転嫁率が低い。コスト上昇分のおよそ4分の3弱を運送会社側が負担しているということだ。

 トラック運転手不足はいまに始まったことではない。年間所得額は全産業平均と比較して4~12%低く、労働時間が長い。若い世代や女性に不人気で、40歳未満は就業者数全体の24.9%(2023年時点)だ。50歳以上が49.8%を占めるいびつな年齢構成となっている。