【世界同時株安】中国・人民元が「ドルの一人勝ち」を崩す日はやってくるのか?

AI要約

国際金融危機の繰り返しについて、金融危機の裏にあるストーリーや国際金融の基礎知識を学ぶ『教養としての金融危機』からの情報を紹介。

基軸通貨とは何か、基軸通貨に選ばれる通貨の条件とはどのようなものか。

現在の基軸通貨であるドルの地位や今後の展望、人民元に代わる可能性について分析。

【世界同時株安】中国・人民元が「ドルの一人勝ち」を崩す日はやってくるのか?

なぜ国際金融危機は繰り返されるのか。世界史の中で起きたさまざまな金融危機の裏にあるストーリーから国際金融の基礎知識を描き出した話題書『教養としての金融危機』著者からいま必要な知識や考え方を学ぶ。

基軸通貨というのは日本独自の言い方ですが、外貨準備として保有しておきたいような通貨(準備通貨)の中でも最も優越的な立場にある通貨を意味します。

ある通貨が準備通貨と受け止められるためには、メンジー・チンとジェフリー・フランケルが挙げている次の4条件が参考になります。

(1)その国の経済力と貿易量

(2)その国の金融市場の成熟度

(3)その通貨の価値への信認

(4)ネットワーク外部性*

*同じ財・サービスを消費する個人の数が増えれば増えるほど、その財・サービスから得られる便益が増加する現象のこと

たしかに、その国の通貨の取引量が多いほど、人々はその通貨を保有したいと思うでしょうし(1)、その国の通貨の調達や運用が容易で、しかも自由に持ち出しができること(2)は必須条件です。インフレ等で価値が毀損しないことはもちろん、その通貨への投資が急に没収されたりしないとの信頼(3)が大切なのは言うまでもありません。さらに、他の人々が使っていれば自分もその通貨を使うと便利です(4)。準備通貨として受け止められる通貨は頻繁に変化することはなく、習慣と化して長く受容されます(慣性)。

戦後75年以上が経過し、ドルの力は相対的に低下したとはいえ、依然として圧倒的です。例えば、IMFに報告される各国の外貨準備の構成通貨の内訳を見ると、直近(2021年第1四半期)でもドルが約6割を占めています。第2位のユーロは約21%、続いて円が約6%、ポンドが約5%、人民元が約2%です。

貿易の通貨建てでもドルが多く使われています。2018年にEU28ヵ国が域外から輸入した品目の56.2%がドル建てで、ユーロ建ては35.3%でした。EUから域外への輸出では48.7%がユーロ建てですが、ドル建ても34.4%あります。2020年下半期、日本への輸入は64.8%がドル建てで円建ては27.8%、日本からの輸出でも円建ては37.7%に過ぎず、ドル建てが48.5%を占めます。第三国間の貿易の多くがドル建てで行われているのは、まさにドルの基軸通貨としての地位を示しています。

BIS(国際決済銀行)のデータでは、2019年に行われた為替取引の88%にドルが関わっており、ユーロは32%、円は17%、人民元は4%に過ぎません(売買の双方をカウントするので合計は200%です)。国際的な銀行間の決済に用いられるスイフト(Swift)で用いられる通貨では、ドルが約38%、ユーロが約37%(2021年1月)と拮抗しています。しかしそれ以外の通貨では、ポンドが約7%、円が約3%、人民元が約2%に過ぎません。

このように現状ではドルの一人勝ちですが、近い将来ドルに代わって人民元が基軸通貨となる、と予測する声も聞かれます。そうした見方をどう考えればよいでしょうか?