日本製鉄、中国宝山鋼鉄との合弁解消は単なる「脱中国」ではない…その先にある「新冷戦」のリアル

AI要約

日本製鉄が中国との合弁事業からの撤退を発表し、米国のUSスチール買収案件に注力する背景について、その影響を考察する。

日本製鉄は宝山鋼鉄との合弁解消を通じて、米国政府や議会に向けたシグナルとして、戦略的な判断を示している可能性がある。

USスチール買収案件に関連し、日本製鉄が国家的利益や安全保障を考慮した行動を取り、労働組合や関係者の意識も含めて事態の進展を見守る必要がある。

日本製鉄、中国宝山鋼鉄との合弁解消は単なる「脱中国」ではない…その先にある「新冷戦」のリアル

去る7月23日、日本製鉄は世界最大手、中国宝武鋼鉄集団傘下となる宝山鋼鉄との合弁事業となる宝鋼日鉄自動車鋼板からの撤退を発表した。同社は2004年設立で日本製鉄が半数50%の株式を保有するが、新聞報道によれば所有株を約380億円で宝山に売却するようだ。合弁の解消で日本製鉄は中国での生産能力の7割を失う。つまり、事実上、日本製鉄は中国市場から明確に軸足を外してみせた、という話だ。

この決断の理由として挙げられていたのは、中国政府の国家戦略的なEVシフトなども背景に、近年、彼の地で急速にシェアを落とし、苦戦する日系自動車各社の状況や中国鉄鋼メーカの自動車向け鋼板領域での競争力の向上などを踏まえ、ここからの成長は困難であると日本製鉄が見切りをつけたからだ、とその背景を各紙が伝えていた。

しかし、微かに理由を匂わす記事もあったが、この決断の背景にある最大のものは、彼らがいわば社運を賭けて取り組んでいるUSスチール買収案件にこそあるのだと思う。この決断がひいてはUSスチール買収にはプラスに働く、のではなく、寧ろそのためにこそ、彼らは歴史を紐解けば日中国交正常化の1972年、人物も周恩来や鄧小平の名前すら見るような国家的・政治的判断も含んで始まった宝山鋼鉄との関係の清算に動いたのだと思う。

筆者は2024年4月19日付の記事で、やはり日本製鉄のUSスチール買収を採り上げ、それはそのまま日米同盟の強度を(むしろアメリカ側において)占う案件で、「新冷戦相場」の帰趨も併せて占うものだ、という趣旨の記事を書いた。リアルな認識として軍事を考えればなお「鉄は国家」であり、その鉄を同盟国とは言え日本に委ねるのかどうか、ただ新しい冷戦の枠組みや冷戦が熱戦に変る可能性の有無や時間軸を冷静に分析すれば、時間の余裕を持たないなかでは、技術力に勝る日本製鉄がUSスチールのある意味再生を手助けすることは、国家的な利益になる、その判断を米国がするのかどうか、この案件は静かにその帰趨を見守るべき案件だ、と直接にではないがそんな思いを記事に書いた。

実際、USスチールの所在地がスィングステートであるペンシルバニア州にあり、労働者の雇用確保に確信を持てるかどうか、労働組合の組織票も意識したそうした話だけが論点ではなく、この問題は安全保障に繋がっていて、中国政府と関係の深い日本製鉄に本当に鉄を渡せるのか、という問いがあることは、4月の段階で、例えば民主党のシェロッド・ブラウン上院議員がバイデン大統領に送った書簡にも記されている。

おそらくは(これは完全に筆者の推測だが)、水面下の調整などを経るなかで、日本製鉄は自らの潔白を、宝山との合弁解消というような象徴的なカタチで具体的に示してみせる必要性がある、と感じたのではないだろうか。

また、最近の記事には日本製鉄がUSスチール買収にかかる顧問として、第一次(第二次があるかどうかは分からないが)トランプ政権で国務長官を務め、対中強硬派として知られるポンペオ氏を起用したことが報じられている。

宝山との合弁の解消とポンペオ氏の起用は、そのまま米国政府や米国議会に向けられた日本製鉄のシグナルではないか、と思う。少なくともそうした視点を持つことは重要だ。