「昭和の京セラ」はブラック企業スレスレだった?稲盛和夫が夜遅く帰社した社員にかけた言葉とは

AI要約

稲盛和夫氏率いる京セラは「狂セラ」と揶揄されるほどのモーレツな働きぶりで成功を収めたが、それは単なるブラック企業とは異なる独自の哲学に基づいていた。

京セラの社員は稲盛氏のリーダーシップの下、自らの仕事に全力を尽くし猛烈な努力を惜しまなかった。その姿勢が企業の驚異的な成功を支えた。

最新の経営研究によれば、従業員の仕事への情熱を引き出すには、自律性、有能感、関係性の3つの要素を満たすことが重要である。

「昭和の京セラ」はブラック企業スレスレだった?稲盛和夫が夜遅く帰社した社員にかけた言葉とは

 あまりにモーレツな働きぶりから、かつては「狂セラ」とも揶揄された京セラ。しかし「経営の神様」稲盛和夫氏によるマネジメントの根底には、単なるブラック企業とは一線を画す、血の通った哲学があった。「京セラ」と「京セラ風」企業との決定的な違いとは?(イトモス研究所所長 小倉健一)

● 「狂セラ」断罪は一面的

 京セラやKDDI(当時DDI)を創業し、日本航空を復活させたことで「経営の神様」と呼ばれた稲盛和夫氏は、その卓越した経営手腕で知られている。昭和の時代の話であるが、京セラの業績は絶好調であり、そのオフィスは夜中になっても明かりが消えることはなかった。

 このため、「京セラは狂セラ」と揶揄されることもあった。しかし、当時の時代背景を考えると、「モーレツ社員」という言葉が褒め言葉として使われていたことなどから、現在の価値観で一方的に断罪することは適切ではないだろう。

 それでも、当時の人々でさえ京セラの社員の猛烈な働き方には驚かされる部分があったのである。稲盛氏のリーダーシップの下で、社員たちは自らの仕事に全力を尽くし、昼夜を問わず努力を惜しまなかった。このような姿勢が、京セラの驚異的な成功を支えたのだ。

 現在から振り返ると、その働き方は常軌を逸しているように見えるかもしれないが、当時の価値観と社会状況を考慮すれば、京セラの成功にはそのような努力が必要だったのである。

 結局のところ、京セラの成功とその背後にある社員たちの献身的な働き方は、稲盛氏のビジョンとリーダーシップによるものであり、その評価は時代を越えて見直されるべきである。京セラの歴史は、単なる過去の成功例ではなく、現代の企業経営にも多くの教訓を提供しているのである。

 今回は、なぜ稲盛氏が率いた創立当初の京セラにおいて、社員たちは自分から進んで「仕事の鬼」となったのかを述べたい。

● 従業員の「やる気」を引き出す3つの要素

 経営学の最新研究の一つである『従業員の仕事への情熱評価モデルの実証的研究』(2018年、モントリオール・ケベック大学) をもとに、稲盛氏の行動を分析してみよう。この研究は調査結果を以下のようにまとめている。

 《従業員が仕事についてどう考え、どんな行動を取るかを説明するために、基本的な心理的欲求がどのような役割を果たしているかを調べました。全体として、従業員が会社の環境、仕事の内容、人間関係に対して良い評価をすると、彼らの心理的欲求(自律性・有能感・関係性)の満足度が高まることがわかりました。これらの心理的欲求が満たされると、仕事に対する意欲や情熱が高まり、それが仕事に対する意図(目標達成・努力・協力・推薦・継続)に良い影響を与えることが示されました》

 リーダーの側は、従業員が下記3点を満たすように努力する必要がある。

 1.自律性:自分の行動を自分で決められること。

 2.有能感:自分が仕事をうまくこなせると感じること。

 3.関係性:他の人と良い関係を築けること。

 この3つが与えられると、人は仕事への情熱が増すということだ。同研究は、こうも指摘する。