【社説】デジタル赤字 放置すれば円安招く恐れ

AI要約

日本のデジタル赤字が急拡大している。巨大IT企業による市場寡占が背景にあり、コンピューターサービスや著作権等使用料などが海外に支払われている。デジタル赤字は2023年度に約5兆5千億円で2・6倍に拡大し、国内企業のクラウドサービス強化も追いつかない状況である。

デジタル赤字が避けられず、今後は巨大ITのデジタルサービスを利用しながら経済成長につなげる必要がある。しかし、中長期的にはAI開発など独自サービスの生み出しでデジタル産業を育てる取り組みが不可欠だ。

「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では国内のデジタル産業を海外市場に展開する必要性が示唆されており、官民一体で取り組むべき課題となっている。

【社説】デジタル赤字 放置すれば円安招く恐れ

 日本のデジタル赤字が拡大している。社会のデジタル化に伴うもので神経質になる必要はないとはいえ、放置すれば円安の促進要因になる恐れもある。中長期的な視野でデジタル産業を育て、国内で稼ぐ力を高めることが肝要だ。

 デジタル赤字とは、スマートフォンやデジタル関連サービスを通じて巨額の利用料が海外に支払われていることを表す言葉だ。グーグルやアップルなど「GAFAM」と呼ばれる米巨大IT企業による市場寡占が背景にある。

 その動向は日本と海外とのモノやサービス、投資の取引状況を示す経常収支から読み取れる。

 サービス収支のうち、コンピューターサービス、著作権等使用料、専門・経営コンサルティングサービスをデジタル関連収支と定めた日銀によると、2023年度のデジタル赤字は約5兆5千億円だった。赤字幅は、約2兆1千億円だった14年度の2・6倍に急拡大した。

 コンピューターサービスにはクラウドサービスやオンライン会議システムの使用料などが含まれる。著作権等使用料は動画・音楽配信のライセンス料、専門・経営コンサルティングサービスはインターネット広告代金などで、いずれも巨大ITが得意とするデジタル社会の基盤的サービスである。

 国内企業も市場拡大が見込まれるクラウドサービスなどの事業を強化しているが、先行する巨大ITの寡占を崩すのは簡単ではない。

 社会のデジタル化を進めるために巨大ITのサービスを利用せざるを得ない現状だ。デジタル赤字の拡大は避けられない。コンピューターサービスだけで30年には赤字額が約8兆円に達し、原油の輸入額を上回るとの経済産業省の推計もある。

 23年度の経常収支は対外投資収益に引っ張られ、過去最大の黒字を記録した。訪日客の増加で旅行収支の黒字が約4兆2千億円と過去最大だったのも一因だが、デジタル赤字はこれを上回る規模だ。

 主要民間シンクタンクの見通しでは、経常収支の黒字幅は縮小し、赤字になるとの予想もある。経常収支の悪化は円安要因となる。

 当面は巨大ITが提供するデジタルサービスを利用し、新サービスの提供や生産性向上などで経済成長につなげることが優先である。

 世界がしのぎを削る生成人工知能(AI)の開発で独自サービスを生むなど、中長期的な取り組みも不可欠だ。

 デジタル庁が6月にまとめた「デジタル社会の実現に向けた重点計画」は、国内のデジタル産業が海外市場を獲得できるよう取り組む必要性を指摘した。官民一体で知恵を絞ってほしい。

 グーグルやアマゾンなどはガレージで創業し、巨大ITに成長した。デジタル分野の進歩は目覚ましい。挑戦する姿勢が何より重要である。